「唱歌を万人の心の歌にまで深めた先人の物語」この道 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
唱歌を万人の心の歌にまで深めた先人の物語
童謡の父と言えば「兎と亀」・「花咲爺」・「金太郎」などで有名な唱歌を作った石原和三郎とされているが唱歌を万人の心の歌にまで昇華させたのは間違いなく北原白秋、山田耕筰のご両人。
映画では慎吾ちゃんですので軽く見えてしまいますがそもそも二人を結びつけたのは赤い鳥運動の鈴木三重吉、その優れたプロデュース力の賜物でもあるでしょう。
「からたちの花」がラジオ放送の開局の歌、そして白秋でなく耕筰の方の少年時代の思い出が基になっていたとは知りませんでした。
稀代の天才、二人が紡ぎ出した名曲、童謡が主題だから二人の生き様も抒情的、メルヘンチックに脚色されていますね、映画の白秋は耕筰の思い出話のように語られますから白秋の全てではないのでしょう。
男女の仲はおよそ他人には理解し難いものですが、俊子が白秋を捨てたように描かれているのはどうなのでしょう、柳川の実家が事業に失敗し白秋の元に身を寄せたが姑も俊子にも辛く当たったようだし俊子も結核を病んでいた。詩人では生活力も乏しく収入も不安定、一時、漁師にまで身を落とし、苦労の挙句の離婚とされている。二番目の妻の章子も白秋が弟の事業再建に肩入れしたこともあり着物まで質入れさせ、苦労の末、俊子同様胸を病み、挙句に不倫を疑われ離婚されている。そんな不実もあり菊子には尽くしたようだが白秋を支えてきた妻たちがあったればこその無垢な詩集なのでしょう・・。
山田耕筰とて女性関係はルーズ極まりなく宴席では猥談しかしなかったというから白秋のことをとやかく言えた義理でもないだろう、いや、だからこそ馬が合ったのかもしれませんね。
そんなことを言い出したら世界中の大音楽家や芸術家、演奏家まで似たり寄ったり、美しい詩やメロディを産み出すのに聖人君子である必要はないし、作品と生きざまは混同しないのが鉄則でしょう。生活の為には心ならずも時代に迎合せざるを得ず残した作品の多さからも葛藤、心労の程が伺えます。
時代を経た今でも歌い継がれ、白秋の詩心はサザンの桑田さんや米津玄師にも影響を与えていると聞くと感慨深いものがありますね。