「味わい深い良作」ねことじいちゃん 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
味わい深い良作
ベーコンという猫は大した役者である。演じたタマは、人に寄り添い、淋しい三毛猫に寄り添う。勿論見返りなど考えもしない。ただ生きて、そして死ぬ。生きていることに意味などない。そんなものを求めているのは人間だけだ。だから人間はいつも欲求不満で、いつも不幸なのだ。
動物を飼うのは生命と向き合うことである。生命というのは健やかなときもあれば病めるときもある。外見は綺麗でも、大腸には汚物を溜め込んでいる。そして一刻ごとに老いていく。飼い猫が成長して老いていくということは、飼っている自分も老いていくということだ。
島にはたくさんの猫が住んでいる。島の老人たちは、自分たちが老いて近いうちに死んでいくことを知っている。まだ経験していないことはたくさんあるが、今更そんなことを嘆いてもしょうがない。それよりも身近な人やもの、それに島の猫を大切にしよう。歳を取ると残り少ない日々がとても愛しい。
掃き溜めに鶴ではないが、老人たちばかりの島にやって来た女性に、柴咲コウというとびきりの美人を配役したのがよかった。みんなから注目され、そして好かれなければいけない役だから、目を瞠るほどの美人である必要があるのだ。その上に優しさと落ち着きを持ち合わせていなければならない。柴咲コウには、女の優しさを表現する力がある。
猫と老人たちとで過ぎてゆく日常を淡々と綴った作品だが、壊れたり失われたりすることそれ自体を愛する気持ちがある。諸行無常を嘆くのではなく、人生の儚さそのものを楽しむ、俳諧のような世界観だ。味わい深い良作である。
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