「怪物に餌をやる」ザ・プレイス 運命の交差点 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
怪物に餌をやる
カフェの中、しかも同じテーブルでの会話劇のみで成立させるワンシチュエーションサスペンス作品である。しかし話の展開が想像以上に多く、幾つものストーリーが同時進行で展開される。その中には交わるものもあれば、単独で成立するものもあったりして、非常に複雑な構造になっている。何が繋がって、何が単独なのかその謎解きも提供されているのだろう。しかしながら余りにも数が多すぎで、把握が難しい。幾つもの話を記憶しておかなければどこで繋がっているのかを結びつけ難い。頭脳明晰ならば覚えている事が可能だろうが、脳のシワが少ない自分では、今作の面白さの50%も得られていないだろうか。
まるでそのカフェの住人と化しているような主人公が、一歩も外に出ずひたすら思惑とノートへの書き込みを行なっている。そしてひっきりなしに依頼人がそのテーブルを訪れ、契約遂行中の過程、状況、そしてこれが大事なのだが、その際の気持、言い訳をいろいろなトーンで吐露していくのを利きながら、時には叱咤激励を受ける。その理由は、とんでもなくやっかいな願いを叶えて欲しいということなのである。作品では語られていないが、多分沢山のその無理難題を過去に叶えてきた評判で依頼者が集まっているのだろう。契約だから金銭のやり取りがあると思うのだがその部分は押し出していない。例えば連れ添った夫のアルツハイマーを治して欲しいとの願いに、時限爆弾で不特定多数を殺せばその願いが叶うと言った具合に。人間の欲望を叶えるために非道な条件を出す悪魔の契約の如く、男は躊躇なく提示する。そしてその“風が吹けば桶屋が儲かる”的な直接に結びつかない因果関係に戸惑い、さらには憤怒の表情を隠さない依頼者はしかし自分の願いを叶えたいが一心で、状況報告をしにカフェへと足を運ぶのだ。
その行動は誠におぞましくそして滑稽すら感じる。一方は神の存在を再度実感したい女に妊娠することを条件につきつけ、もう片方には目が見えるようになりたい男に女に乱暴することを条件にする。確かにこれはそれ程非論理ではなく、出産による苦しみと喜びは正に神の存在であり、男に取ってみれば自分の伴侶が出来れば正にそれが目の代わりとなってくれる。とはいえ、結局は二人は結ばれない。なかなか思い通りにならない事を示唆するモノであり、それぞれの達成感はその人が決めるものである。
さて、果たしてこのカフェでの絶望と希望を告げる男は神なのか悪魔なのか。そして膨大に書き込まれたあのノートは地獄の閻魔帳なのか。自分なりの解釈とすれば、実はあの男も又、別の誰かにあの役を遂行するよう条件つけられていたのではないだろうか。願いは二度と裏切らない人生の伴侶を得たいという願いを叶える条件として。そう考えれば、ラストは大変スマートでカタルシスが得られるのだが、如何だろうか。