劇場公開日 2018年12月22日

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「70年ぶりの約束を果たす旅路。」家(うち)へ帰ろう HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)

4.070年ぶりの約束を果たす旅路。

2019年1月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

悲しい

2019年1月17日(木)。阪神淡路大震災から24年目の震災復興祈念の日に、いのちの有り難みに感謝しながら、朝イチから、ミニシアターの京都シネマにて、ホロコーストを生き延び、アルゼンチンのブエノスアイレスに住むユダヤ人のお爺ちゃんが遙かポーランドまで70年ぶりに約束を果たしに旅をするロードムービー映画を、私の年老いた父親と共に鑑賞。

ユダヤ人のお爺ちゃんのロードムービーとして微笑ましい演出もあり、ホロコーストの非人道的な面ばかりを強調する映画でもなく、硬軟のバランス感が良くてとても観易くて面白い映画でした。

冒頭から、主人公のお爺ちゃんのアブラハムと沢山の孫娘の中の1人との間で集合写真を撮るのと引換えにiPhoneを買わされるお小遣いの値切り交渉から笑わされました。

幸せそうな集合写真を撮る、齢88歳のアブラハムでしたが、その写真とは裏腹に、長年住み慣れた家を引き払い、老人ホームに入居させられる事が決まっており、不自由な足も検査結果次第では切断も余儀なくされる状態だったのでした。

部屋を整理するや否や1着のスーツを持参して、アブラハムはその夜に以前から計画していたかのように荷物をまとめて家出を決行!
第二次世界大戦の末期、ユダヤ人の彼を匿って救ってくれた命の恩人である幼馴染みピオトレックに、別れ際に約束していた、彼が仕立てたスーツを手渡すために。

飛行機の中で出会った若者レオナルドを助けたり、助けられたり。
マドリッドで宿泊するホテルの中年の美魔女な女主人マリアに対し「セニョリータ(お嬢さん)」って呼んで怒られたり、バーで一緒に食事をしながら、マリアの強烈な身の上話や下ネタで盛り上がったりと楽しく面白い会話が尽きなくて、思わず観ながらずっと笑わされ通しでした。

しかし、そんな楽しいひとときも束の間、旅の途中、思わぬ災難に遭ってしまうのですが、幸いにして、行く先々で出会った人たちに助けられるのでした。

また、この災難のおかげで、アブラハムは、喧嘩別れをしたままだった、マドリッド在住の末娘のクラウディアに再会せざるを得なくなりましたが、彼女は、アブラハムの他の多くの子供たちの様な形式ばった言葉だけの愛よりも、真の愛情を、彼女のその腕に刻まれた数字のタトゥーで示している事に改めて気が付かされたり・・・。

スペインのマドリッドから陸路の列車でポーランドへ行くには、あの忌まわしきナチス党が闊歩していたドイツ国内を通るしかなく、また、加えて、そのドイツ国内の駅で列車を乗り換えなければならないのでしたが、過去にナチスドイツから冷酷な迫害体験を受けていたアブラハムは「ユダヤ人がドイツを通ることなど出来ん!」と断固拒否しますが、それではまさにお手上げ状態。

そこへ偶然通りかかった多言語に精通する文化人類学者のイングリッドが手助けをしてくれようとするのでしたが、彼女がドイツ人女性と言うことから、アブラハムも最初こそは拒絶するのでした。
ですが、彼女のとんちの如く機転の利いた解決策で、駅構内に足を地に着けることなく済むことが出来たりした事から、少しずつ彼の気持ちにも変化が生じてくるのでした。
なんとか駅で乗り換えてポーランドのワルシャワ行きの列車に乗り込むアブラハム。
果たして無事に故郷の地に帰省することは出来たのでしょうか・・・。

何よりも、この映画で良かったのは、88歳の年老いたユダヤ人のお爺ちゃんであるアブラハムに対して、旅先で出会う人たちによる、親切や優しさがリレーされていくところでしょうね。
また何故に、それほどまでに、かたくなに70年もの間も故郷であるポーランドに帰省しなかったのか?「ドイツ」は未だしも「ポーランド」という言葉さえも口から発することが嫌だったのか?
お話しが進むにつれ、アブラハムのトラウマから生じ、過去がフラッシュバックされていき、直接的な凄惨な描写自体は大してないものの、ポーランド系ユダヤ人だったアブラハムの発する「聞いたんじゃない。この目で確かに見たんだ。」といった台詞など端々から、ホロコーストの悲惨さが感じ取られ、私も自然と涙腺が緩んでくるほどでした。

「本当は怖い、彼に会うことも、会えないことも・・・。」
果たして70年ぶりに命の恩人であり幼馴染みピオトレックとの奇跡的な再会は出来たのでしょうか?

ラストには、さすがに涙腺崩壊状態でした。
周囲の観客の人たちのすすり泣く声も館内に響いていました。

この旅路は、あたかも彼の人生の縮図のそのもののようでもあり、人は、常に誰かに助けられて生きているのであり、その過程で、生きるか死ぬかの思いをしても、その命を助けてくれる人が現れる。

だからこそ、最後の最後まで希望を捨てずに諦めずに生き続けなければいけない。

また、この映画では、70年が経ったヨーロッパでは、ホロコーストの事実が風化されようとしているといった実情を描きながら、風化させてはいけないという思いと、ユダヤ人のアブラハムとドイツ人をはじめヨーロッパの人々との心の交流の両面を描いています。

ドイツ人とユダヤ人が、お互いを理解し合う気持ちも大切。かといって、第二次世界大戦でナチスドイツが行ってきた蛮行を風化させてはいけないという強い意思が、そこにはあるのでしょう。

きっとそれは、右傾化しつつあるヨーロッパの中で、あの時、何が起きていたかという記憶を失くしてしまうことはとても恐ろしいことであり、そのためにも、互いに助け合い、寄り添う気持ちが大切だと言うことを説いているのかとも思われました。

尚、この旅路の先々で出会う女性たちにかたくなな心を開いていく主人公アブラハム役には、ミゲル・アンヘル・ソラが、未だ実際には60歳代ながらも、老けメイクで88歳の魅力的な老人に見事に変身し熱演。
改めて、映画の作品チラシを詳しく読むまで、実際よりも20歳もの高齢の老け役とは全く判らなかったくらいでした。

旅の途中に立ち寄るマドリッドのホテルの中年の美魔女な女主人マリア役をアンヘラ・モリーナが好演。

監督・脚本を手掛けたパブロ・ソラルスは今作が長編映画の監督2
本目であり、自身の祖父の家では「ポーランド」という言葉がタブーであったことから着想を得て、自分自身のユダヤ人としてのアイデンティティーを確認するために避けて通れないテーマを、今回の作品で、感動のロードムービーとして結実させたとのこと。

私的な評価と致しましては、
笑いあり涙ありの感動作で、しかも説教臭くない程度に、ホロコーストの非人道的さを風化させないことを強調するばかりでもなく、ウィットに富んだ会話の微笑ましい演出も楽しめるといった、実に良い塩梅で、硬軟のバランス感が良い、とても観易くて面白い作品に仕上がっていましたので、わずか100分にも満たないお話しの流れ自体や、主演のアブラハム役のミゲル・アンヘル・ソラなどの熱演には、ほぼ満点に近い評価に値するかと思いました。
従いまして、総合的には、五つ星評価的には★★★★の四つ星評価も相応しい作品かと思いました次第です。

HALU