「世界の果てに向かって続くペンギンハイウェイ」ペンギン・ハイウェイ TSさんの映画レビュー(感想・評価)
世界の果てに向かって続くペンギンハイウェイ
原作小説を読んで、衝撃を受けたのは随分前のことだ。
小学4年生の男の子と不思議で綺麗なお姉さん。淡い恋心。そして小学生の生活圏内での同級生達との小さな冒険。そんな舞台設定でも何か一つ面白い話が書けそうなものだが、そこに奇妙奇天烈な設定。
森見登美彦の脳内は一体どうなっているのか、どうしてこんな物語が書けるのか?不思議で不思議でしょうがなかった。
ペンギンを出すお姉さん。
お姉さんのおっぱいと顔をじっと見てしまうのは何故かと考えてしまうアオヤマ君。
謎の海。海を消すペンギン。
全てを知っているようで、ヒントしか教えてくれないお父さん。
不思議なんだけど、怖いという感じがしない。なんだか、ありそうな、あったら面白そうな気もする。そんな世界。
原作小説を読んでいると、鋭い観察眼を持つ大人びたアオヤマ君のキャラクターのせいか、大人の目線でこの不思議な世界に入り込んでいくような気がしたが、この映画では、小学生の目線で観ることができた。アニメの画と声の力で、世界が広く、明るくなったように感じられた。
キャラクターが動き、話し、アオヤマ君の街の風景が広がっていく。ペンギンがキュッと鳴く。かわいい。この不思議な世界のペンギンは、これだ!っていう姿で出てくる。
原作の世界観を見事に映像化し、活字から想像するとちょっと浮世離れしたアオヤマ君とお姉さんをぐっと身近な存在にしてくれた。
アオヤマ君は観察を続けた。彼は、お姉さんとペンギンと海の不思議を完全に解明できなかった。解明できなくても別によかったのだ。解明することは、大事なことではない。
原作小説の最後のアオヤマ君と父との会話。
アオヤマ君は「世界の果てを見るのはかなしいことでもあるね」とつぶやく。
私はこの会話と最後のアオヤマ君の決意を読んで泣いてしまった。
そして映画を観て、この会話を思い出して泣いてしまった。
大人の世界に足を踏み入れようとする少年が遭遇した不思議なお姉さんは、世の中には、理屈では説明できない理不尽と、不思議と、そして愛っていうものがあることを教えてくれた存在のように思えて、何故だか暖かくも切なくなってしまったのだ。
この作品は、かわいいペンギンの出てくるSFアニメとして子供でも楽しめる映画だけど、大人の方は原作も読んでみると、とても深いお話であるということがわかると思います。
絵が綺麗だった。そして、エンディングの宇多田ヒカルの曲もこの作品にマッチしていてよかった。本当に、見事な映像化作品でした。