「ペンギンハイウェイ研究」ペンギン・ハイウェイ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ペンギンハイウェイ研究
映画「ペンギン・ハイウェイ」には大きな謎がある。この物語のテーマは何か?ということだ。
全ての映画にテーマを求めている訳ではない。単純な娯楽作だって存在して良い。
だが「ペンギン・ハイウェイ」にはあるはずだ。この作品の根幹を成すテーマが。なのにその姿はハッキリとは見えない。「何となく、こんな感じなのかなぁ」と思うだけだ。
このモヤモヤは何だろう?面白いと感じる要素はあったはずだ。謎解き・冒険・成長と、物語に引き込まれる仕掛けはあった。でもどれも大きな感動を引き出すパワーに欠けていた。何故か?要素と要素をつなぐテーマが見えてこないからだ。
この作品のテーマを探るべく、私は原作を紐解くことにした。本を読んでも面白くないなら、素材が悪い。本が面白いなら、脚色が悪い。乱暴だが、概ね間違ってないと思う。
結論としては、本は面白かったしテーマもちゃんと描かれていた。
で、気づいたのだが細かい演出を失敗しているのだ。例としてトラックに乗せたペンギンが消えてしまうシーンを挙げる。
映画では衝撃を感じてトラックを停めた運転手の戸惑うカットが入る。その後、教室で噂話として輸送中のペンギンがいなくなった現象を知る。先にストーリーを知っているならともかく、件の運転手がペンギンを乗せていた事が瞬時に理解できる工夫がない。
運転手を一目で特徴が掴める髪型(モヒカンとかリーゼントとか)にするとか、派手な塗装のトラックにするとかやりようがあったはずだ。
それだけで「あれってペンギンだったんだ」という後出しの印象が無くなり、「ペンギン消失という不思議現象の目撃者」になる体験を味わえる。
ストーリーをなぞってはいるが、あくまでも「知っている人向け」でしかなく、後から説明されるだけの謎解きは退屈でしかない。
収まりきらない部分は大幅に削っているものの、冗長感を解消させるには至らず「切った割にはテンポが悪い」展開なのもいただけない。しかも切った部分がテーマに直結しているから「アオヤマ君の成長」も中途半端なものになっている。
特に「死ぬということ」についてのウチダ君の研究は、アオヤマ君が「大切な存在」であるお姉さんの喪失をどう捉えるのか、その理不尽とどう折り合いを着けるのかを決定づける大事な要素である。
それがあって初めて「僕がどんなにもう一度会いたいと思っていたかを」の台詞に深みが出るのだ。
2回目観たら話が解ってる分面白く観られるかもしれないが、1回目より2回目が面白いのは当たり前の話だ。
素材の持つ哲学的な部分が活かされていないのはたいへん残念なことだと思う。