劇場公開日 2019年2月1日

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「たまには少女マンガもいい」雪の華 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5たまには少女マンガもいい

2019年2月9日
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鑑賞方法:映画館

萌える

 ほぼ少女マンガだが、たまにはこういうのも悪くない。病弱で引っ込み思案に育った年頃の娘が主人公で、人と関わりを持つためには声に出して伝えないといけないと言われ、素直に頑張ってみるという、如何にも少女マンガのストーリーであるが、主人公の健気なところが琴線に触れる人がたくさんいると思う。ひねくれずに鑑賞すれば、それなりに楽しめる。
 中条ポーリンあやみは、強く抱くと壊れそうな線の細い主人公にぴったりの配役である。温かさに触れると溶けてしまう雪のように、人に触れて心を溶かしてゆく。雪も桜も、儚いから美しい。その冬のその雪、その春のその桜は、二度と見ることができない一期一会の邂逅なのだ。
 閉じ籠っていては人に逢えない。黙っていれば人と関われない。だから声を出していこうと、相手役の悠輔は言う。主人公美雪にとって彼は声も大きく力も強く、エネルギーの塊のような存在である。燃え尽きそうな美雪が彼を選んだのは、ある意味で必然であった。
 悠輔を演じた登坂広臣は、とにかく声がいい。高く澄んでいて、力強く響き渡る。エネルギーに満ち溢れた声だ。当方がプロデューサーだったら、演技力その他は二の次で、声と体格で文句なしに彼を選んだと思う。しかし折角のいい声で「は?」みたいな否定的な聞き返しの台詞を何度も言わされて、少し気の毒だった。おじさんの考える若者言葉の典型だ。今の若者はもう少しデリカシーがある。あんなに「は?」を多用したりしない筈だ。台詞もちょっとは人生観や世界観の片鱗を覗かせてもよかったように思う。
 魔性の女で名を上げた高岡早紀がヒロインの母親役をやっているのには隔世の感を禁じ得なかったが、なかなか堂にいった母親ぶりである。こんなに綺麗でおおらかで優しい母親の子供に生まれたら、ひねくれようがない。美雪が病気に苦しみながらも素直さと優しさを失わないでいられるのはこの母の存在による。その辺りは説得力のある設定で抜かりがない。
 コマーシャルでは「大人のラブストーリー」と勘違いのキャッチになってしまっているが、この作品は、ダメ出しや不整合を指摘するよりも、少女マンガの世界観をほのぼのと受け止めるのがいい。雪や桜やオーロラなど、この世には美しい自然がいくつもあるのだ。

耶馬英彦