劇場公開日 2023年11月3日

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「歴史の影のスパイたち」サタデー・フィクション バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0歴史の影のスパイたち

2025年7月10日
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鑑賞方法:映画館

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2019年製作でもともとは2020年公開予定だったがコロナ流行で延期となり、中国本国では2021年に、そして日本では2023年になってようやく公開された。

いやぁ、面白かった。主要人物のほとんどが裏の顔を隠してお互いに接触し、またその一方でその裏の顔を見破り、そのまた裏をかく虚々実々の駆け引きが描かれる。全編モノクロの映画でロングショットも多いため若干見にくいところもあるし、現実世界と劇中劇の境界線を意図的に曖昧にしているところがあったり、結末付近に解釈の難しい謎の部分も残したりしているため、きれいにすっきりとわかるタイプの映画ではない。そもそも監督がロウ・イエなんだから娯楽映画ではなくアート映画であって、あえて言えば娯楽映画寄りのアート映画というか、アート映画寄りの娯楽映画というか、そんな感じ。

「歴史」を感じさせる仕掛けも上手く、舞台となる蘭心大劇場は実在の劇場で他にも上海には当時の建築物が多く残されているらしく、それらの場所でロケが行われていることが映画の歴史的臨場感を高めている。また主人公の逃亡先の候補として香港やアントワープが挙げられるが、後の歴史を知る者にはいずれもやがて日独の手に落ちる場所だということがわかっている。一方で劇中の人物たちは当然そのような先の歴史は知らないわけで、そのような先の見えない中で彼らはその時その時を必死に生きていたのだということを強く感じさせる作劇も上手い。

中欧日の各人物の描き分けも素晴らしく、コン・リー、マーク・チャオ、オダギリジョー、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー、中島歩、ワン・チュアンジュン、チャン・ソンウェンら名優たちの演技によってそれぞれが血肉を持った人物像になっている。群像劇要素の強い映画だが、そんな名優たちの中でも登場すると一気に観客の耳目を惹き付ける主演のコン・リーの華というか演技力というかその存在感よ。もちろんロウ・イエの演出力も間違いなくあるのだが、やはりこの人は特別な俳優なのだと思う。デビュー作の『紅いコーリャン』からリアルタイムでずっと彼女を観続けてくることができたのは本当に幸運だった。

バラージ
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