「全てが既視感あったがまあ面白い」アナイアレイション 全滅領域 桃子さんの映画レビュー(感想・評価)
全てが既視感あったがまあ面白い
細胞の増殖や変異に関する説明から始まる序盤は、後半の展開に向けた布石だったのかもしれない。しかし、これまで軍隊のメンバーが調査に入っていたのに、突然裏方の学者たちが派遣されるのは違和感があった。単なる調査要員ならともかく、学者が最前線に立つのは不自然に感じる。戦争で理系が率先して前線に立たされるようなものだ。知識が必要な調査ならまだしも、情報を持ち帰るだけの任務で学者を送る意図が分からない。
シマーの内部は、草原の中に突如として異空間が広がるという、どこかで見たことがあるような光景だった。『アナと雪の女王2』の魔法の霧や、『ハンターハンター』の新大陸、『トリコ』のグルメ界など、幻覚を見せる異空間という設定はよくあるが、本作ではそれが美しくも不気味な雰囲気を醸し出していた。
しかし、唯一の生存者が原因不明の負傷を負って戻ってきたにもかかわらず、調査チームがマスクもなしに突入するのは危機管理が甘すぎる。しかも、内部で4日間の記憶が飛ぶほどの影響を受けているのに、冷静さを欠いた行動を続けるのは不可解だった。
とはいえ、学者たちがそれぞれの専門知識を活かしながら未知の環境にアプローチしていく展開は知的好奇心をくすぐる。南の方角を時計の短針で測る知識など、実用的なサバイバル術も散りばめられており、学者集団ならではの視点が楽しめた。一方で、危機的状況においての判断力の欠如も目立った。ラディックが何かに引きずられた際、冷静な対処をせずに飛び込んでしまうのは、軍人としてありえないミスだろう。
作品の世界観としては『ファンタスティック・ビースト』のような異生物が棲む異世界に近い雰囲気があり、特に水辺のシーンでは圧倒的な不安感が演出されていた。ビジュアル面では『ミッドサマー』を彷彿とさせる幻想的な色彩や、静かな恐怖を描く映像が印象的だ。また、人が花になるというモチーフには強い既視感を覚えたが、具体的にどの作品だったかは思い出せなかった。
せっかく学者たちを集めたのだから、地学・物理・生物学などの各分野の視点からもっと詳細な分析を入れてほしかったという惜しさもある。そして、序盤で「嘘つき」と言われたキャラクターが、主人公の浮気相手の妻かと思いきや全く関係がなかった点も少し肩透かしだった。
最終的なオチは綺麗にまとまっており、レナがいつ入れ替わったのか明確ではないが、穴から出た順番を考えると最初に脱出したのが本物で、後から追ってきたのが偽物だった可能性が高い。全体として、哲学的なテーマを持ちながら、異世界探検のワクワク感とスリラー要素が融合した作品だった。