「波打つ音に耳を澄ませ、幻想と現実の狭間をするりと抜ける歓び」夜の浜辺でひとり ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
波打つ音に耳を澄ませ、幻想と現実の狭間をするりと抜ける歓び
幻想と現実の狭間をくぐり抜ける飄々とした幻想譚とでもいうべきか。奇才の持ち味を最良の形でアップデートさせた本作は、多くのファンにとって実に嬉しいプレゼントとなった。もはやホン・サンスにとって国境は何ら意味もなさない。いや、むしろそこで巻き起こるギャップこそが表現の糧とでもいうかのように、その一部始終が面白く、微笑ましく、かと思えば公園内で急に地面に膝をついてしまうようなシーンに意表をつかれ、胸を鷲掴みにされたりもする。
ところでホン・サンス作品に時々登場する得体の知れない人は何者だろうか。浜辺でヒロインを抱え上げ、事あるごとに時間を尋ね、バルコニーでは窓拭きに従事している顔の映らない人々。もしや、彼女を見守る天使?様々な予測が巡りながらも、謎を謎のままに、明確な答えを知りたくない自分がいる。そんなことを知らずとも、この何も起こらぬ映画を彩るすべての瞬間は、本当にユーモラスで愛おしいのだ。
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