劇場公開日 2018年6月16日

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「身体は遠く離れていても心は離れられないふたり」夜の浜辺でひとり とえさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0身体は遠く離れていても心は離れられないふたり

2018年6月20日
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鑑賞方法:映画館

面白かったなぁ

これは、ホン・サンス監督がキム・ミニと別れない理由なのか、それとも言い訳なのか…と、いろいろ勘ぐりながら観た

監督との不倫が明らかになり、世間を騒がせた女優が韓国を出て海外へ
彼女のことを知る人がいない外国で、彼女はのびのびと暮らし始めるが…

映画監督と不倫中の女優が、ある日突然、監督の元を離れて海外へ行ってしまったら
という設定の中で、彼女の心の変化を追い続ける

彼女は、監督と離れる決心をしながらも
寂しさからは逃れられず、いつしか、消えてしまいと思うようになり、ただぼんやりと海を見つめる

たとえ物理的な距離は離れたとしても、心の片隅には、いつも監督がいて
砂浜にいても、いつのまにか監督の似顔絵を描いてしまうほどなのだ

そして人の噂で「監督はあれ以来、抜け殻のようだよ」と言われると、なんだかホッとする

そのうち、いつか偶然に再会して、また痴話喧嘩することを願うようになる

これはどう観ても、ホン・サンス監督と、キム・ミニが
「もしも別れたら」
という仮定の話を描いたものじゃないかと思ってしまう

そう思いながら観ていると
「私的な回想を描いた映画なんて退屈でしかない」
なんていうセリフが出てきて仰け反ってしまう

つまり、これはホン・サンス監督にとっては、とても私的な作品であり、
観客はそれを退屈に思うかもしれないけど、監督が撮りたいから撮ってるんだ
という、確信犯な作品である

そして
「もしも、二人が別れることになったら、お互いに抜け殻になるに違いない」
という、ホン・サンス監督の願望と想いが、もろに反映されているのである

しかし、それも波の音にかき消される程度の白昼夢でしかない

そもそも、愛なんてものは、ただの虚構でしかないと、監督は言いたいのだ

その割に、いつまで経っても煮え切らず、ハッキリしない監督に対し、周りの目も気にせず怒鳴りつけるキム・ミニを見ていると、きっと日頃の2人は、こんな感じなんだろうな…
と思えてくる

そして、イキイキと輝くキム・ミニを観て、これこそ、監督がキム・ミニを愛する理由であり、彼女から離れられない言い訳なんだと思った

監督は、彼女がいなければ抜け殻になってしまうし、煮え切らない監督を時には厳しく叱ってくれる彼女が必要なのだ

他人にとっては、そんなどうでもいいようなことも、彼らにとっては映画にして残しておきたい美しい思いなのだ

とえ