「さすがアードマン。ギャグも面白いが、キャラが苦手」アーリーマン ダグと仲間のキックオフ! Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
さすがアードマン。ギャグも面白いが、キャラが苦手
にわかに"ストップモーション"、もしくは"クレイアニメ"がひとつのカテゴリーグループを形成しつつある。
最近話題になったのは、いずれも"日本文化"または"日本人"をオマージュした2作品。それは第68回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(監督賞)を受賞したウェス・アンダーソンの「犬ヶ島」(2017)と、第89回アカデミー賞で長編アニメーション部門にノミネートの「KUBO クボ 二本の弦の秘密」(2016)だが、他にも同じアカデミー賞ノミネートの、「ぼくの名前はズッキーニ」(2016)も、パペットを使ったストップモーション作品だった。
一方で、アート映画「ゴッホ 最期の手紙」は全編、油絵風アニメといった作品も注目されたように、"手作り感"と"独特の動き"といった個性を表現できるアニメーション手法に、クリエイターも観客も魅せられている。
セル画やCGがリアルになり、実写CGと見分けがつかなくなればなるほど、手作り感のある表現価値が上がるのかもしれない。
さて、本作はそのストップモーションアニメのムーブメントの原点であるニック・パーク監督とアードマン・アニメーションズ (Aardman Animations Ltd) の完全新作である。
「ウォレスとグルミット」とその派生作品で、アードマンを世界的に有名にしたニック・パーク監督が共同製作ではなく、初の単独監督作品というのが注目。
キャラクターは原始人。それは恐竜もいた先史時代の英国のマンチェスター辺り。空から降ってきた隕石が熱すぎて、脚で蹴っているうちに、"サッカーが生まれた・・・"(笑)という英国ジョークから始まる。
まさに"ワールドカップ・イヤー"ということで、原始人がサッカーをする話になったのかと思いきや、そんなにストップモーションは甘くない。構想から完成まで8年も掛けているのである。
石器原始人たちの暮らす村と、その村を襲った青銅器を扱う民族がサッカーで勝負をする。
"集落・住居の造り"や"衣服や道具"の質感表現。動きや表情の多様性など、何気なくスルーしてしまいそうになるほど自然で、細部にわたり作り込まれている。さすがアードマンである。
しかし「はじめ人間ギャートルズ」を知っている世代としては、素朴さや滑稽さ、原始人モノの深みに、物足りなさを感じてしまう。
それ以上に、問題はキャラクターが可愛いか、可愛くないかである。実はアードマンのキャラは苦手だ。"ひつじのショーン"は認めるが、原始人ダグは、お世辞にも褒められない。
とはいっても個人的には、訳のわからない言葉を喋る"ミニオンズ"の大群も、生理的に受け入れがたいので、こればかりは個々の観客の感性だろう。むしろダグの相棒として活躍するブタ(猪)のホグノブのほうが、これからのスピンオフ主人公に向いている。
本作は、主人公ダグの声をエディ・レッドメインが務め、敵の大将・ヌース卿の声をトム・ヒドルストンが担当するなど、豪華なCVである。また英国の各地方のイントネーションの違いをキャラクターごとに変えたり、青銅器民族のフランス語訛りは、ネイティブでない日本人にはまったく分からない。
本作の真価は英語セリフで楽しむべきものなのだが、素直に日本人は吹替版を楽しめばいいし、吹替版ならではの発見もあったりする。
鴨が原始人たちを背中に乗せて飛んでくるとき、"鴨が(ネギならぬ)、原始人をしょってくる"と訳していたり。日本語訳で、"(相手を)コケにする"で、実際に原始人が手に"苔"を持っているのは、英語では何と言っているのだろう・・・と思ったり。
(2018/7/8/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/吹替翻訳:杉田朋子)