「芳しき華」芳華 Youth KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
芳しき華
リウ・フォンとシャオピンが主人公だ、と冒頭で説明されるが、主人公はこの二人ではない。この二人だけではない。でもやっぱりこの二人が主人公か。
何人もの主人公の小物語を繋ぎ合わせて、楽しみ苦しみ良い事も悪い事もして生きた時代を描いた群青劇。
青っぽくて要領の良くないシャオピン。
不恰好な敬礼と屈託のない笑顔が可愛らしい。
しかしその裏にどれだけの覚悟を抱えていたのか。
17歳。入隊前のことは言葉口でしか語られないけど、相当嫌な体験をしてきたことだろうと思う。
文工団の仲間からのチクチクしたいじめの描写は、私の個人的な傷やコンプレックスを刺激してきて正直とても不快だった。
もっと生き易いやり方もあるのに、どうしてこうも上手くいかず裏目裏目に出てしまう彼女が痛々しい。
そして何の迷いもなくシャオピンを除け者にする周りの人達にイライラする。
みずみずしいタッチで、ナチュラルに嫌な出来事を掬って見せてくるギャップは、面白くもキツく感じる。
いじめをいじめとも思っていない人達それぞれにも恋心やドラマがあって、最初はそれをどう受け止めていいか分からなかった。
現実って常にそんなかんじなのかも。
話が進むに連れて、良し悪しだけでは測りきれない人間の面白さを感じ、良い方向に気持ちを向けることができた。まあ物は考えようだけど。
因果応報勧善懲悪なんてそう叶わない。
悪い言動を放っていても他に魅力があり友達で居続けたいと思う人もたしかにいる。多分。
親切だけどどっちつかずで明確に助けの手はくれなかったスイツの立場は、見ていて共感できるけどちょっとズルイかな。
それでも彼女のちょっとした行動に少し救いを感じる。
でもディンディンの色目の使い方とかシューウェンの効率の良い感じはやっぱり苦手。
世の中こういう人が成功していくんだよね。羨ましいこと。
少々良い人が過ぎるリウフォン。
徹底した善人っぷりは後に仇となるし、後に恩になる。
しかし彼に救われた人はたくさんいるんだろうな。どの場に行っても彼の背に付いて行く人が多い。
シャオピンの小さな恋心が届かないときの不憫さと言ったら。やっとの再会は精神病院だし…。
文工団の中で完結する話だと思っていたので、どんどん舞台や年代が変わることに少し驚いた。
ちょっとした隙に話がぐんと進んだり、敢えてカットして切り貼りした見せ方なので集中して観ていた。
軍服を着て銃の訓練もするとはいえ歌と踊りがメインの場から、突然のリアル戦場の描写に一気に緊張感が高まる。
文字通り白衣が血で染まる看護現場に、容赦なく命がボロボロ崩れていく奇襲。
今までの綺麗な映像とは打って変わって残酷描写も多く結構ショックだった。
全身火傷の16歳の少年に私も寄り添いたい。戦争って本当に嫌だ。嫌すぎる。やりきれない。
雪国の厳しい寒さで育った白菜は温室ですぐ腐る。
理不尽な扱いを受けても絶望的な状況下でも目の奥に芯の強さを抱いていたシャオピンの虚ろな表情が辛い。
その分、文工団の最後の演目を観て記憶や生気が蘇り一人舞うシーンがバチバチに胸打ちまくってきた。
笑って踊ってる姿が一番きれい。
大泣きしすぎてボェッボェッと声が出てしまった。周りの席に全然人がいなくて良かった。
文工団解散前の宴会もすごく好きなシーン。
今までそれが全てだったのに。無くなってしまう事実があっても実感がない。
パフォーマンスの際は表情を作って上手に美しく歌っていたのに、感情ダダ漏れのヒドい顔でヒドいクオリティの合唱をするのがもうたまらなかった。
このシーンでディンディンもシューウェンもやっぱり好きになった。
そして一気に時が経ち、30代のそれぞれの人間模様がまた面白い。
生活の格差をまじまじと感じてしまうのは辛いけど。私もこれからそんな風に思うことが増えるのかな、なんて思ったりして。友達だけは大切にしたい。
ディンディンの現在の写真にはちょっと笑ってしまった。
久しぶりにまともなツーショットを見せてくれた駅のベンチでのシャオピンとリウフォン。
過去に酷く恋い焦がれた人に対して何か諦めたような気持ちになって話してしまうの、すごく分かるな。
二人のラストカットがこの上なく美しくて安心した。
エピローグの語りにまた心震える。
次の再会と仲が進展するのに更に10年時を重ねたのか!と驚きも交えつつ。
一番幸せそうだと言われるのが二人で良かった。
この長い物語の結び方がとても良い。
枯らしたと思った涙がまた出てくる。
でも、老いた姿は見せたくないとか、若い時を一番輝いていた頃とか、その言葉が少し悲しい。
そんなこと言わないで。今が一番良いと思って生きて。昔話をずっと聞いてきたんだから未来に光を感じさせて。
なんて考えつつ、青春時代の諸々って快楽も痛みも喜びも悲しみも全部ひっくるめて良い思い出になってしまうものだなと心から思う。
私の人生も映画みたいなもの。いつか振り返ったときに今この瞬間をどう捉えるんだろう。
歳を取って死に近付くのが怖いと感じることもあるけど、色々と楽しみに生きていたいな。
良い映画だった。
リウフォンがチョコレートプラネットの長田氏に見えた。