「来ない」来る ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
来ない
和製ホラーの中でも、Jホラーのようにダウナーではないアッパー系で、しかも目玉となるようなモンスターも登場しない、という点で風変わりな作品。
これができるのなら「ガダラの豚」を映像化して欲しい。
いいぞもっとやれ。と、思う反面、その内実は乏しい。
家庭内悲劇を扱っているのに、その描き方が安直なこと、特に子役の言動(演技ではなくシナリオ上の)にリアリティが薄かったことが、喰い足りなさの大きな原因だと思う。
別に主人公が変わろうが、主要な人物があっさり退場しようが、意味があるのなら構わないと思う。
しかし肝心の中盤に戦略が感じられない。とにかく日替わり、シーン替わりが多く、曲バーン! と弱々しいブーストをかけて、どうにか盛り上げたところでスカして結果だけ見せる、みたいなのの繰り返し。
序盤はまだ仕方ないとしても、終盤で霊能力バトルが始まる段になりすわ本題か、とこっちが身構えてもまだやってるのには呆れた。
見かけだけ取り繕うのはいくないよー、と振っておきながら、この作品自体がキャラとか設定ばかり作り込んでおいて、内容が伴わない「見せかけ」映画になってはいないだろうか?
さんざん勿体つけて登場した松たか子演じる(おそらく日本トップクラスの)霊能者のキャラは魅力的だけど、彼女がなにをどうしたいのか、観客には明確にわからない。
「悪霊を祓う」と言いながら、岡田准一演じるフリーライターが悪夢に取り憑かれるのも放置、外では柴田理恵を始めとする国中の霊能者が身体を張って頑張ってることになっているが、あれは一体なにを頑張ってるの?
「あれ」と呼ばれる怪物をひとまず部屋に迎え入れる、と言っていたのになんか頑張って祈ったり祝詞あげたりして、何をしてるのかわからないまま、バタバタと倒れていく。
悪夢のパワーを削いでおとなしくさせながら呼び込みたいのか? それにしちゃずいぶんな死傷者ですが、そんな危険なお祓いによく集まってくれたね?
とにかくなにをしたいのかわからないままバーン! ドーン! と色々起こる。が、こちらにはなにが目的で、どこへ向かっているのか理解できないのでポカーンである。
なんか科学的な機器でモニタリングしてる人とか、シチュエーションとしてはいいんだけど、その目的は謎のまま、単なるハッタリにしかなっていない。
これを心霊版シンゴジラと呼ぶのはあまりにも失礼だと思う(むしろ心霊版「何者」の方が近い)。
たとえば「最初に、鶏が鳴きます」と言って実際それをやるのなら、少なくとも「次に、〜が〜します」は必要ではないですか?
シンゴジラは少なくともそこら辺の段取りはちゃんとやっていた。というかあの映画の美点は徹底して「段取り」を考え抜いたことにあると思う。
それは観客を乗せていることだから。
乗せる=観客の期待を煽る、ということだから、きっちり落とし前を付けてくれないと。
ホラーというジャンルを謳いながら、それをやらないというのは、観客への裏切りであり、ドラマや葛藤を避けているのと同義。
これが「見せかけ」でなくてなんだろう?
中島監督ほどのキャリアと(国内作品としては)恵まれた体制がありながら、それが出来ないというのは本当に残念でならない。
そのような見せかけ、自分の嘘に溺れるような作り手だからこそ、妻夫木くん演じる夫の人からどう見られるのかだけを気にして取り繕う空っぽな描写に熱が入ったのでは、と邪推もしたくなる。