「まさかのクリスマス・ムービー!」来る cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかのクリスマス・ムービー!
「あれ」は、来る前からすごかった。
親の付き合いであれこれ観慣れているはずの子が、本作公開前の数カ月、予告が始まった、と察知した途端に耳を塞いで縮こまる。映画館内のポスター前を通るのも、そそくさ。チラシにも手を伸ばさず。余りの怯えっぷりに、「本編はどんなにすごいんだろう」という期待がむくむくと…。当然、子にはきっぱりと拒絶され、久しぶりに単身で悠々と映画を観た。
何より本作がユニークなのは、理不尽で不可解な「あれ」に立ち向かう側が、複数の対(夫婦、恋人、姉妹、友人…)を成し、入れ子細工のように入れ替わり立ち替わりしていく点だ。主人公がいて、それを支えるパートナーがいて…という定番は一切なし。しかも、それぞれのキャラクターが曲者で、あれやこれやと物語に「仕掛け」てくる。中でも印象を残すのは、主役然としながらも頼りない、妻夫木聡演じる秀樹と、じわじわと存在を出していく、小松菜奈演じる真琴だ。(松たか子演じる姉で霊媒師の琴子は、唯一最後までぶれないので例外。)
秀樹の軽薄さ、からっぽさにはかなりイラつく。その顛末には「自業自得」と思ったものの、終盤でクッキーを前にしょんぼりする姿には、思わず苦笑。そんな悪い奴ではなかったのかも、と気持ちが和らいだ。イクメンぶった言動は、家族への責任感ゆえの不安の裏返しとも思われ、冒頭の滑稽なほどの必死さを思い返すと、少ししんみりするほどだった。
一方、苦労の連続の黒木華演じる香奈は、最後までいいとこなし。母のため、子のため…と食べてもらえないナポリタンを作り続け、最後は結局母親と同じ轍、とガッカリな方向へ流れてしまう。真に母親側の思いを代弁するのは、真琴だ。凡人ながら果敢に「あれ」に立ち向かう。ぶっとんだメイクやファッションがいつしか気にならなくなり、彼女の声や表情がひしひしと伝わってくるのに驚いた。不安を抱えつつも、危険や痛みをいとわず、最後は自分の直感を信じて突き進む。まさに、子育てを通して育っていく(育てられていく)母親そのもの、な気がした。
怖いけれどおもしろい、すっきりしつつももやもやする。そんな矛盾の振り幅が、ホラー映画の醍醐味だと思う。解決したのか惨劇の始まりなのか、のエンディングのバランスは手堅く絶妙だった。ホラーにして育児もの、そして実はクリスマス・ムービー!な本作。ああ面白かった!とほくほくしながら帰宅した後、ふと日常と映画がかぶってぞっとしたり、考え込んだりすることが今も度々ある。一人の胸に収めておくのは、ちょっともったいない。できれば次は複数でわいわいと観て、あれこれ感想を話し合ってみたいと思う。