「ウラジミル・プーチンの手強さと、その独裁体制の致命的な欠点」オリバー・ストーン オン プーチン Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ウラジミル・プーチンの手強さと、その独裁体制の致命的な欠点
オリバー・ストーン監督・脚本による2017年製作のプーチンへのインタビュー主体の230分に渡る米国ドキュメンタリー映画。出演者はインタビューアーとしてのオリバーストーン、ウラジミル・プーチン、同時通訳のセルゲイ・チュディノフ。
大変に興味深いものであった。プーチンは用意周到な根っからの嘘つきであることも分かったが、それ以上に大変な人たらしで、大変な巧妙な語り手であることも判明。ウクライナに関しては別だが、シリアに関しては自分の知識が少ないせいもあるかもしれないが、彼の主張に一定の説得力を感じてしまった。教養乏しい一般的なロシア国民が、タフで力強くみえるプーチンに信頼感を覚えるのも少なからず理解できた。
また、単純にクレムリンの中の幾つかの執務室、或いは保養地の別宅等は大変に興味深く、執務室で前線司令官等とダイレクトに繋がるテレビ電話システムをプーチンが見せたことも大変に興味深かった。アイスホッケーのプレーは有名ながら、プーチン自身がベンツを運転しながらインタビューに答えている姿には相当にビックリ。
オリバー・ストーンのインタビュー技術も非常に巧みであった。大統領選へのサイバー介入は否定も、サイバー技術蓄積の国家的育成の長い歴史や、米国へのサイバー戦争のルール作りの提案、更に攻撃されたらそのままという訳にはいかないとのプーチンの言質を引き出したのはお見事。
そして、敵ながらプーチンの歴史的教養と鋭い知性、主張の巧みさが見て取れた。スターリンへの評価を問われ、英国のチャーチルが第二大戦時スターリンを高く評価したが、戰後一転して彼への強い警戒を示して冷戦を導いた、そんな現実的視点有する政治家チャーチルへの高い評価を表明した後、スターリンを持ち出すことによるロシアへの欧米の印象操作を述べた上で、プーチンがスターリンの功罪を論じたのには随分と唸らされた。欧米及び日本の敵は、流石に手強い相手である。
しかし一方、クリミア併合は自分が主体では無い、あくまで併合を住民が望んだからだと答えていた。まさに詭弁で、この理屈で言えば何処の地域でも併合できてしまうし、逆にロシアの一地域にこれを適応されたらそれを許すのか?ということで、きちんとした論理構成になっていない。多分、独裁が長く良い参謀もおらず、深い議論や科学的思考が難しいのだろう。実際、クリミヤ併合で国内での短期的人気は得たが、部品調達不備による武器刷新の不能等も含め、ロシアの科学技術的進歩を大きく阻害し国益を大きく損ねている。短期的には別だが、長期的には怖くない相手の様にも思えた。