「田舎民にも見てほしい」ゼニガタ 佐藤美優さんの映画レビュー(感想・評価)
田舎民にも見てほしい
この手の映画はだいたい東京が舞台なのかなと思っていたが、田舎の凝り固まったコミュニティならではのドロドロギスギスした汚さが出ていて、田舎民としては「わかる」「ある」というのが漠然と感じられた。
メインの兄弟ももちろん、この作品はサブキャラクターが一人一人立っていた。メインよりむしろサブの人々に感情が乗りがちなのは、ウシジマくんとかに近いかも。
買い物をやめられない女、居場所を求めてフラフラしてしまう男、田舎に行って農業やれば変われると安易に思ってしまった女など。
買い物で負債を背負っている珠などは特に「わかる」が多い。
女の、水面下での探り合いや心理戦が延々続くことへの疲弊と、その中で、いつともなく心が死んだ姿。目が据わったような演技がすごく良かった。
不良としてへらへらしつつもヤクザから離れられない樺山は、最初はただの小物っぽかったものの、途中から愛着を沸かせる役作りがすごい。北斗の拳ばりの小物感で嘲笑の対象だった彼に、次第に同情し、最終的には彼の救いを求めてしまいそうになる。
田舎にやってきて農業で負債を背負った留美。最近よくある、都会と違って暖かくて人情のある田舎で悠々自適な自給自足ライフを、なんていう話を聞いているときに感じる滑稽さをまんまあらわしたキャラクター。彼女が銭形で語った「田舎へのギャップ」もとてもリアル。彼女はこの作品の良心でもある。田舎でもそれと言ってうまくいかず、田舎でもなじめない女、という感じの女が巧みに演じられていた。
全体を通して、やはり都会の人よりも田舎の人に見てほしいと感じた。
決して後味がよく爽快でもなく、汚い人間を描いた作品ではあるものの、また見たいと思える良作だった。