「五感と官能を刺激する純愛映画」エンジェル、見えない恋人 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
五感と官能を刺激する純愛映画
別の映画が目当てで映画館へ行き、この「エンジェル 見えない恋人」のポスターを見つけ、「目の見えない少女と透明人間の少年のラブストーリー」という設定に完全に心を奪われて、急遽この映画のチケットを買ってしまったほどの一目ぼれだった。”目の見えない”少女と”目に見えない”少年という取り合わせの妙。この設定だけで既に詩のようである。
というわけで、私は設定とポスターの印象だけで映画を見始めてしまったので、内容についてはほとんど知らない状態だったのだが、さすがにポスターの印象と設定から受けるイメージとはかなり違う内容だなということにはすぐに気が付いた。てっきり少年少女のピュアなラブストーリーとして「小さな恋のメロディ」的な位置の純愛映画かと想像していたものの、実際の作品は実に官能的で肉感的。彼らが少年少女でいる時間も割と短めであるし、その背景には重苦しい設定も浮かんでくる。私は勝手に「目の見えない少女と透明人間の少年のラブストーリー」という設定に純真さを期待してしまったけれど、この映画は逆にとても官能的でセクシー。完全に大人のラブストーリー。
そして私はこの映画にから、「見えない」ということを、他の五感を刺激することで映画に置き換えようとしているそんな印象を受けた。私は映画館でスクリーンを「見て」いるのだけれど、その「見る」という行為で「見ない」ことを感じるというか(なんだかややこしいな)。「見えない」ことで研ぎ澄まされていった聴覚や嗅覚や触覚などを、映画を「見る」と言う行為を通じて強く感じさせるような(またややこしい)。視覚を一つ塞ぐことで「官能」が五感のひとつとして加わり、刺激され掻き立てられていく。そんな様子を感じさせる映画になっていて、想像してた作風とは違ったけれどこれはこれでユニークで面白いと思った。ベルギーの映画だったけれど、やっぱりヨーロッパは官能の解釈が深いなと本当に思う。ついついありふれた純愛映画を期待した自分の発想の貧困さを思い知ったような感じだった(いやこの映画は紛れもない純愛映画なのだけれど)。
とても静謐で、物語に大きな起伏があるわけではないのだけれど、五感どころか第六感まで使って全身で映画を感じるような作品だったし、ポスターに一目ぼれしてチケットを買って良かったなと思った。