「若者たち(ミュータント)はトラウマ(買収)を乗り越え自由(別スタジオ)へ」ニュー・ミュータント 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
若者たち(ミュータント)はトラウマ(買収)を乗り越え自由(別スタジオ)へ
大ヒット&人気アメコミシリーズ『X-MEN』のスピンオフ。これで通算13作目。
スピンオフはこれまでにも『ウルヴァリン』や『デッドプール』があったが、本作はガラリとまるで系統が違う…!
先住民居住区を“何か”が襲い、父親に助けられ、ただ一人生き残った少女、ダニ。“竜巻”だと説明を受けるが、間違いなく“何か”に襲われた。
ある施設に収容されたダニは、ミュータント。そこには他に、治療を行うDr.レイエスと、若い4人のミュータントが居て…。
やがてミュータントとして覚醒。5人で“ニューX-MEN”を結成。
シリーズ史上最大のスケール! 強大な巨悪に立ち向か…わない!?
これまでは超能力アクションは毎度の事、ゴールデン・ゲート・ブリッジを動かしたり、過去~現在~未来が“共演”したり、宇宙に進出したり、壮絶な最期を遂げたり、過激なバイオレンスにギャグと、大スケールやピンチ、強大巨悪な敵など、色んな意味で我々を楽しませるエンタメ要素を提供。これぞ、THEアメコミSFアクション!
しかし今回は何と、青春ホラータッチ!
施設に収容された5人の若者の友情やヒリヒリとした関係。
舞台もほとんどこの施設内。時折この施設内を徘徊する不気味な化け物、人影。怪事件。
ダニはまだ自分の能力を知らない。自分の能力、そして過去の記憶…。
施設とDr.レイエスの本当の目的とは…。
一応最後はアクションの見せ場も設け、アメコミSF×青春×サスペンス/ホラーといった、本当にこれまでとは全然違う『X-MEN』。
つまらなくはなかった。
でも、さすがに地味過ぎた。
前半は冗談抜きに若いミュータントたちの物語のみ。サスペンスタッチでもあったり、少々退屈でもあったり。
Dr.レイエスは過去のシリーズでも出てきたある研究所の回し者。ひょっとして彼女が今回のラスボス!?…と思ったが、その後ダニの“トラウマ”が登場。この○○ちゃんとの闘いが最後の一番の見せ場。
う~ん…。スピンオフとは言え、仮にもこれが『X-MEN』の新作か…。
これまでのようなSFアクション大作を期待すると間違いなく大火傷するだろう。
『X-MEN』とほぼ切り離し、完全に独立した作品にしたのは評価したい。作中に“X-MEN”という言葉も出てくるし、『LOGAN/ローガン』から若いミュータントと関わりあるワンシーンも挿入される。だけど、もうちょっとでいいからリンクネタを絡めてワクワクさせて欲しかった。
それは作品の内容以外でも表れた。
興行はコロナの煽りを受けたせいがあったとしても、シリーズ最低。
批評もシリーズ最低評価だった前作『ダーク・フェニックス』をさらに下回り。
日本では初めて劇場未公開。販売と配信のみ。(だったので、U-NEXTで見れた事はラッキ~)
ディズニーによるFOX買収で、事実上最終作。
何とも侘し過ぎる最後の『X-MEN』になってしまった…。
シリーズ最小スケールはキャスト面にも表れている。
登場人物も少なく、無論お馴染みの新旧メンバーも登場しない。
ネームバリューも低い若手たち。ほとんど初めまして。
でもその中でも、ダニを何かと敵視するイリアナ役のアニヤ・テイラー=ジョイはやはり若手注目株なだけあって個性放っていた。役柄的にも旨みあり、カッコいい見せ場もあり。
監督のジョシュ・ブーンは『クロニクル』でのSFセンスや『きっと、星のせいじゃない。』での青春演出が買われての人選だろうが…、
忘れてはいけない。以前にも同じアメコミ・チーム物で大コケした事を…。
当り外れの差が非常に激しい監督だが、勿論今回は…。
劇中の印象的だった台詞。(ちとうろ覚えだが)
ヒーローとして活躍するミュータントたちは自分の能力を制御する事が出来る。だが、覚醒し始めた彼らはそれが出来ない。その時が最も危険。
分からなくもない。周りに害を及ばさない為にも、自分自身の為にも。
しかし、このシリーズの一貫。差別や偏見。時には彼らの命が利用され、狙われる。
何も望んでミュータントとしてこの世に生を受けた訳ではない。不条理、望まぬ運命、宿命…。
ミュータントであっても、彼らもそれぞれ漲る生と若さ。
誰もそれを止められない。
過去の苦しみも、悲しみも、トラウマも。
乗り越えて。
自由の扉が開く…。
ラスト、ダニたちを閉じ込めていた透明のドームが消え、自由に。
向かった先は案外、某別スタジオだったりして。