彼が愛したケーキ職人のレビュー・感想・評価
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彼は確かにそこにいた
愛する人が唐突に亡くなる
その温もりを二度と
感じられなくなる衝撃は
トーマスを見知らぬ土地へと。
彼の影を追うように
エルサレムを彷徨うトーマスは
エトランゼの孤独をも抱え
寄る辺なく悲しく切ない。
彼の通っていたプールで
彼の遺した競パンを見つけ…
でもそれを履いても
彼の体温はそこにはないのだ。
想いは募る
彼の足跡を追えば追うほど
想いは募る
彼の母親の慈しみ深い眼差しが
おいらの心にも
とても暖かい何かを残してくれた。
消失の空気
空気感や映像からは良さげな雰囲気が漂ってくるけれど、自分でもびっくりするほど登場人物の行動と感情に寄り添うことができなかった。
おそらく十分な収入のあった夫を亡くし、母手一人でカフェの経営と息子のケアをしていかなければいけないアナトの苦労と寂しさは分かる。
しかしそれにつけ込むようなトーマスの行動にはモヤモヤしてしまう。
愛する人の消失からくる衝動的なものだとは思うけど、トーマスは何がしたかったんだ本当に…。
オーレンが愛した家族を知り、彼が好んで食べていたケーキやクッキーを彼の家族や街の人々に共有させたかったのかな。
レシピを伝えて、この先もずっとこの街にオーレンとトーマスの思い出の形が残るように?
だとしてもアナトが全てに気付いた時に一番傷付くようなことをしなくてもいいじゃない、とどうしても思ってしまう。
悪気が無いことも、彼自身が自分の行動について理解しきっていないことも伝わってくるのだけど。
そもそも、出張先でのありがちな不倫なわけで。
不倫を頭ごなしに否定する気はさらさらないけれども。
かなり美化した描き方がどうも気になって、もう少しその恋の苦しみの部分や葛藤を見せて欲しかった。
終盤に判明するオーレンの気持ちには少しグッと来たけど。
厳格なユダヤ教の食物規律である「コーシェル」に関する出来事が頻繁に見られる。
鑑賞後チラッと調べてみたら、その細かすぎるルールに笑ってしまった。
コーシェルに厳しく従うか少し緩く考えるかの采配でトーマスへの心の許し方が現れているのが面白かった。
特に誰かに反感を覚えることもないけれど感情移入することもなく、この物語を受け入れ難かったことが残念。
全体に流れる消失の切なさの空気は好き。
あと自分がお菓子やパンが全然好きではないので、綺麗に映し出されるそれらに全く惹かれなかったせいもあるのかな。
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