彼が愛したケーキ職人のレビュー・感想・評価
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せつなすぎる
予告編で、経営するカフェに突然現れたケーキ職人は夫の恋人でした、と説明していて、全部言うてもうてるやん、と思いつつ、観た。
イスラエルからベルリンへたびたび出張している夫は、ベルリンでお気に入りのケーキ屋を経営するトーマスと恋人関係になる。出張が終わってイスラエルに帰り、またベルリンに戻ってくるはずの1か月を過ぎても連絡がつかないので、思い切ってイスラエルの会社を訪ね、彼が亡くなったことを知る。
そのまま妻の経営するカフェを探し当て、仕事をもらうが、ユダヤ教の壁は高い。それでも英語が話せる人が多く、自分の作るクッキーやケーキは好評で、自分の居場所を見つけた感じだったのが、何も知らない恋人の妻と関係を持った後に全てがバレて、恋人の兄に「1時間で荷物をまとめて4時間後の飛行機で帰れ!」と怒鳴られる。
主人公は女性でなくトーマスだと思うのだが、若いけど覇気がなくて表情が乏しく、左横顔や肌はきれいだが(右眉が切れている)色白ぽっちゃり、ぬぼーっとした雰囲気で、正直、どうなん⁈と思わせる。でもそれがポイント。実は両親がおらず育ての親の祖母も他界し、孤独な人だったのだ。恋人の死因は、離婚して自分と暮らすと妻に話した後に交通事故に遭ったことだと知った時の無表情が悲しい。泣きじゃくるトーマスは、もっと悲しい。
最後、またベルリンでケーキ屋を営んでいるトーマスを見つめる女性の眼差しも良かった。
つくづく思いますが、英語は世界共通語ですね!
込み入った人間関係を鮮やかに切り取るヨーロッパ映画の底力を見たように思いました
ドイツ人ケーキ職人とイスラエルの未亡人の哀しくも切ない愛の物語。同じ男性に惹かれただけに元々二人には共通する感性があったのでしょうけれど、扱いようによっては、倒錯だけが目立ってしまてしまいかねないところを、かくもシックな展開で描くとは、ヨーロッパ映画の奥深さを見たような気分です。戒律を重んじ安息日を大切にするユダヤの人の宗教に根差した生活の一端を窺えた点もとても興味深かったと思います。
愛の対象を共有したいという三角関係
イスラエルとドイツ・・・なんともセンシティブな関係の両国。
それに輪をかけて、映画の内容も、男と男と女のセンシティブな関係・・・
ユダヤ人技師のオーレン(ロイ・ミラー)は、イスラエル・ドイツの合弁会社に勤務しており、月に一度、ベルリンを訪れている。
イスラエルに妻子を持つ彼は、ベルリンで不倫関係を続けているが、その相手は、ケーキ職人の青年ドイツ人青年トーマス(ティム・カルコフ)。
あるとき、いつものようにイスラエルに帰国したオーレンと連絡が取れなくなってしまったトーマスは、矢も楯もたまらず彼が勤める合弁会社を訪ったところ、オーレンはイスラエルで事故に遭い、急死してしまったことを知る。
失意の底にあったトーマスは、オーレンが暮らしたイスラエルの地を訪ねることにした・・・
というところから始まる物語で、その後、トーマスはオーレンの妻アナト(サラ・アドラー)のカフェを訪れ、偶然の機会を得て、そのカフェで働き始める・・・と展開する。
オーレンを中心にした男と男と女の関係・・・だが、三角関係というのとは微妙に(というよりも大いに)異なる。
三角関係だと、中心にいる愛の対象を奪い合うようなイメージだけれど、この映画ではオーレンは既に亡くなっていて、いない(不在)。
そして、奪い合うというよりは、求め、共有したい、分かち合いたい、というような感じなのだ。
トーマスがアナトに関心を持つのは、オーレンが愛したひと(女性)がどんなひとなのか・・・ということだろうし、同性愛者のトーマスが彼女と関係するのは、彼女と関係することでオーレンと一心同体になれる・なりたいと感じたからだろう。
アナトがトーマスに惹かれるのは・・・
これはよくはわからないが、トーマスのなかにオーレンの面影をみたのだろう。
愛し合うふたりは、互いの仕草の端々や話し方などが似てくるから。
(惹かれるときには、トーマスがオーレンの不倫相手だったことは、アナトは知らない)
こういう「不在」の相手を求め分かち合いたいという微妙な雰囲気が、映画全編を包んでいる。
そういう微妙さに対してのある種の明確さが、イスラエルとドイツの文化の違いで、ユダヤ教の食事既定コーシェルがそれ。
食肉処理用のキッチンと乳製品処理用のキッチンは分けなければならないとか、異教徒が焼いたものは食べないとか事細かに決められており、映画の物語を進行させる役割も持っていて、巧みな脚本だと思う。
ということで、演出も脚本も見事なのだけれど、実は、あまり面白くなかった。
面白くなかったというのとは違うのだけれど、主役ふたり、トーマス役のティム・カルコフもアナト役のサラ・アドラーもあまり好きなタイプではなく、どうも映画にはいっていけず、これはもう好き嫌いの問題だから、どうしようもないのだれど。
彼女のほほえみの訳が腑に落ちないけど。
ベルリンでカフェを営むトーマスのもとに、イスラエル人の妻子ありのビジネスマン・オーレンが現れ、やがて恋人になる。月一の逢瀬を楽しんだ一年後、オーレンは連絡が取れなくなり、消息を調べると事故で死亡とのこと。
一方夫に事故死されたオーレンの妻・アナトは自分のカフェを再開し、オーレンの恋人であったことを隠してイスラエルにやってきたトーマスを、カフェに雇う。
日に日に距離を縮めるアナトとトーマスだが…っていうあらすじでした。
概ね切なく見られたのですが、いくつか分からないところがありました。
①カフェのキッチンでトーマスといたしたあと、明るい自室の部屋で笑っていたアナトの感情
②オーレンの通っていたプールのロッカーのコンドームの意味(ベタにプール=発展場との解釈でおk?)
③ラストでベルリンへ行ったアナトは、トーマスが自分の店から出てくるところを見て、満足げにほほ笑んだけれども、彼女のベルリン行きが求めていたものって何?
②は別として、①と③に明確な解答はないと思うんですけれどもね、私の少ない経験からは読み下せなくって。
全体を通じて、トーマスの気持ちになってみました。
妻帯者との不倫の善悪とかは全然忘れて、ただ、「でーあぁーってしまぁーあったーふーたりーーー」(『優しい雨』by小泉今日子で歌ってください※)の、避けがたいフォーリンラブの残骸の話として読みました。
んで、あらすじかどなたかの評で、トーマスは次第にオーレンの身代わりとして生きようとしているとあって、それに引きずられてみたせいもありますが、多分アナトと一線を越えるところがクライマックスになるんだろうなと思っていました。
そこのところは、多くの人が読める展開なんで、だから何っていうわけではないのですが、それをどう受け止めるか、どう描くかを見ていたのです。
トーマスの心情は、オーレンが音信不通→つらい、心配→消息を調べると死んだって…→オーレンの死の真相が知りたい、少しでも彼の近くにいたい→イスラエルへGO→妻に近づけば真相を知れるかも…
ってとこかなって。
それが、どうねじれたかまではわからないけど、彼の水着を着て、ジョグウエアを着て、オーレンの性癖をたどる旅をした。彼を思って時々むらむらだってしたでしょう。そして孤独な旅人生活で、唯一心開けそうなアナトと一緒にいる時間が増えて、絶対オーレンのことも思い出すんだけど、人肌恋しく触れ合いに応じてしまった?ってところなのかなって。全くの私の妄想ですがね。
一応トーマスには、こうかなっていう仮説がつけられるんだけどさ。
アナトは、わかんないのよ。
時系列でまとめると、オーレンに離婚?を打診される(好きな人がいるからベルリンへ移住したい)→混乱してオーレンを一旦追い出すとオーレン事故死→アナト初登場シーンの手続き(死別って手続きしてた)→カフェ再開→トーマス雇う→クッキーうまい→オーレンの好きな人が気になるけど怖くて留守電聞けない→ベルリンのレシートで同じの幾つもある、あ、お土産のクッキーの店だ→店のことを調べる→トーマスのケーキでカフェ繁盛→ディナーも誘って→ついに店のキッチンでアナトからセックス誘ってしまった→大口予約の日に宗教的によくないレッテルをお店に貼られる→トーマスの買い物リストとオーレンの遺品のリストの字が同じことに気づき、オーレンとトーマスが恋人だったことを知る→(トーマスを失う)→ベルリンへ行きトーマスを見つけてほほ笑んでThe end
なんですよ。
オーレンの恋人とは知らずにトーマスに惹かれるっているのは、よくわかるのよ。だけど、ベルリンに戻ったトーマスを見つけて安堵したわけが分からないのさ。
遺品の買い物リストを見て、トーマスって連呼してる留守電聞いたけどオーレンの恋人はトーマスだっていう確信なかったのかな?ドイツ語分からんかったら、留守電の意味わからんかもだしねえ。
あるいは、義兄に殺された?って心配してたから生きててほっとした?それはないわな。
あるいは、オーレンの恋人がトーマスで、そのトーマスがちゃんと生きていてくれたことがうれしかったのかな。オーレンがトーマスの中にいるみたいに思えて。
最後が腑に落とせないけれども、しんみりしみるいい映画でした。
イスラエルの習慣、文化も興味深かったです。
異教徒がオーブンを使うのが食物規定に触れるっての、全然意味わからんかった。肉と乳製品を皿もシンクも分けるっての初めて聞きましたわ。
義兄さんはオーレンの兄なのかな?はっきりとは書かれなかったけれども、トーマスに「母が作った安息日の食事」ってゆって持ってきてたから、アナトの母でなく、映画に出てきたオーレンの母と考えるのが自然よね。
義兄さんの異教徒排斥感(ドイツ人が嫌いなだけかもだけど)はやだなーと思いましたが。
そして、オーレンに帰りのチケットをいきなり突き付けたのは、コーシェルに違反してるっていう張り紙の対策なんかな…
※小泉今日子『優しい雨』は避けがたく出会ってしまった二人が、背徳感をかみしめながら不倫をするときにぴったりのテーマ曲として、わたしの脳内再生頻度が高い音楽です。後ろ暗さと疾走感と悪事の蜜の味を前提に、雨に濡れながら見つめあって抱き合う二人をカメラが360度回って撮るっていう画が浮かびます。不倫に酔ってる感じもあるイメージなので、揶揄的ニュアンスを含みます。
愛した人の謎
複層的なテーマを持ち、飽きさせない。
ドイツ、ベルリンの菓子職人トーマスの店に来たイスラエルからの出張者のオーレンは恋人となる。しかしオーレンにはイスラエルに妻子がいた。そしてオーレンはイスラエルに帰国中に事故死してしまう。
トーマスは愛した人の面影を求めてイスラエルに行き、オーレンが遺した妻アナトの営むカフェに勤めることになる。
まず料理映画の側面。
劇中に登場するクッキー、ケーキ、パン、どれもが美味しそうだ。また、たびたび登場するイスラエル料理も興味深い。
美味しいものは、人を魅了する。
オーレンもアナトも、トーマスの作るクッキーやケーキを愛する。そのプロセスが切ない。オーレンは帰国するたびに手みやげにトーマスのクッキーを買っていた。だからアナトはトーマスのクッキーの味を知っている。アナトはトーマスのクッキーに夫の影を感じ、トーマスに惹かれていく。
LGBT映画として。
とりわけ、既婚ゲイについての言及にリアリティを感じられる。
サスペンス映画として。
アナトがいつ“真実”に気付くのか。そのことに冷や冷やしながら、観ることになる。
背景には歴史や宗教が横たわる。イスラエルではドイツ人は嫌われる。また、ユダヤ教の戒律による食のルール「コーシェル」は本作の重要なモチーフとなっている。
家族や近しい人が亡くなった後、弔問客などから、故人の意外な事実を知るということは珍しくない。「へえー、そんなことがあったの」、と。
死んだからこそ、謎は謎なのだ。
トーマスは、オーレンが語っていたアナトや息子のこと、さらには家族の意味などを知りたくてイスラエルまで行ったのだろう。
そしてラスト。今度はアナトがトーマスの中のオーレンに惹かれることになる。愛した人の謎は巡り、余韻を残しながら本作は幕を閉じる。
人生の機微を感じさせる作品です
宗教、不倫、ユダヤ人とドイツ人、ゲイあるいはバイセクシャル。歴史的・社会的な意味づけは、しばしば人の行動の規範となり、同時に足かせであり、しかし愛はそれらを軽く超える所にあるのでしょう。そして、愚かに見える行動の意味を求めて説明しようとすることの無意味さを感じました。
暗いと感じる人には暗い映画でしょうが、私には理知的な雰囲気が好意的に受け止められました。人生に対する深い洞察が、静かな空気感の中に流れ、それを感じ取る感性がある人には、良い映画であることが伝わると思います。それらは、監督の力量もさることながら、俳優さんたちの演技の秀逸さにも支えられていました。
ただ、昼ご飯を食べた後に見たので、睡魔とは少々仲良しになりました。
置いて行かれた2人。 ポッカリと空いた心を近づけたシナモン香るクッ...
置いて行かれた2人。
ポッカリと空いた心を近づけたシナモン香るクッキー。冷めるのを待ちきれずにつまみ食いする様子に心が踊る。
ジューイッシュの禁忌事項を破り食べるブラックフォレストケーキ。今にもキルッシュの香りが鼻をくすぐりそうなクリームを口に入れる表情が、たまらなく美味しそうで官能的だ。
生地をこねる手から放たれる何かに、すっかり胃袋を掴まれてしまっている彼女。相手が何者であろうと花より団子なのかもしれない。
ドイツとイスラエル、ケーキが繋いだ愛
とても切ない映画だった
ベルリンにあるカフェでケーキ職人をしているトーマスは、イスラエルへ帰った恋人を不慮の事故でなくしてしまう
その事実に愕然としたトーマスは、彼の故郷であるエルサレムへと向かう…
この映画の背景には、様々な困難がある
ベルリンで出会ったトーマスとオーレンはゲイのカップルであること
そのオーレンには、エルサレムに妻子がいるということ
そして、亡くなったオーレンを追ってエルサレムに降り立ったトーマスはドイツ人であり、ドイツ人は多くのユダヤ人にとって、因縁の相手であるということ
オーレンの妻アナトがトーマスを雇う時、ユダヤ教の厳しい戒律を遵守するアナトの兄が「よりによってドイツ人なんかを雇うなんて」というセリフを吐き捨てるシーンがある
そこには、未だにユダヤ人の中にはドイツ人を憎む人たちがいることが表れている
この映画は、そういった様々な困難を背景に、縁があって巡り合う3人の男女の姿が描かれている
そんな彼らを見て思うのは、人と人が出会って愛し合う時は、人種、ジェンダー、婚姻関係という様々な困難を軽々と超えてしまうということ
愛し合うというのは、理屈でも、肩書きでもなく、素の人間同士が化学反応を起こしてしまうことであり
それは、人種やジェンダーや常識が止められることではないということ
そして、この映画がとても良いのは、そんな彼らを繋ぐのが、トーマスが作ったケーキだということ
昔から「男を落とすには胃袋をつかめ」というけれど
男女問わず、料理が上手な人や、美味しいレストランを知っている人や、パティシエは確実にモテる
舌に残る「美味しい」という記憶は、その時に起きた出来事を一緒に掘り起こす
その町に訪れたことは忘れていても、そこで食べた美味しいご飯がきっかけで、町に訪れたことを思い出すことがあるのは、脳よりも舌が記憶しているからだ
だからこそ、この映画のアナトはトーマスのクッキーを食べてオーレンを思い出し、切なく悲しい記憶が、トーマスを引き寄せるのだ
人の感情とは難しいもので「差別や偏見を持たないでください」と言っても
その全てを消し去ることは、とても難しいし、きっと誰でも、差別や偏見を持ってしまう
その人それぞれに過去の経験もあるだろうし、生まれ育った環境もあるからだ
けれど、そんな困難を軽々と乗り越えられるものがあるとすれば、それは「愛」なんだと、この映画を観て思った
それぞれが、自分の中にある愛と向き合って生きていけば
きっと、ドイツとイスラエルの間にある忌まわしい過去からくる関係も、少しは良い方に改善できるのではと思った
そんな彼らの苦い関係の間に、甘いケーキを持ってきたところが、この映画のステキなところだなと思った
甘くて美味しいスイーツは、どんなに頑なな人の心も溶かすに違いないからだ
ケーキとコーヒーの美味しいカフェで、じっくり味わいながらお茶をしつつ、パティシエと会話をしたら、人生が変わるかもしれない
そんなことを思った映画だった
未亡人とゲイ
奥さんとケーキ職人が、禁断の愛を交えるシーンがとても官能的でした。
着衣のままで、全然エロくない場面なのですが、とってもゾクゾクきました。
渡ってはいけない危ない橋を渡っている様子が、よく表れていて印象的でした。
旦那(恋人)の義母がいい味を出していたと思います。
全てを見通していながら、それでいてとても暖かいのです。
切なくてあたたかい
切なくて切なくてやさしい作品でした。学校からいなくなった息子が店に戻った時、無言でココア(でしょうか)を差し出すシーンには涙がでました。つらい話ではありますが全編に人のぬくもりを感じられます。受け止め方はいろいろあるようですが、私は好きな映画です。
邦題はなんだかなぁです。原題は『The cakemaker』。ケーキ職人とcakemakerは大違いだと感じています。せめて『ケーキを焼く人』とかにしてほしかったな。
イスラエルとドイツ
イスラエルからベルリンに出張してきた男と、ベルリンでケーキやクッキーが美味しいカフェを経営する男がいつしか愛し合うようになる。
ところがイスラエルの男は、また来ると行ったまま連絡が取れなくなる。
そこから話が動き出していく。
ケーキ職人のトーマスの行動は、共感できない。
でも、それだけ彼のことが好きで自分を止められなくなってしまったのかなあと感じた。
イスラエルに関する知識がほとんどないので、へえユダヤ教ってこういう部分があるんだあ、とか初めて知る部分はとても興味深かったです。
個人的には見て良かったです。
彼は確かにそこにいた
愛する人が唐突に亡くなる
その温もりを二度と
感じられなくなる衝撃は
トーマスを見知らぬ土地へと。
彼の影を追うように
エルサレムを彷徨うトーマスは
エトランゼの孤独をも抱え
寄る辺なく悲しく切ない。
彼の通っていたプールで
彼の遺した競パンを見つけ…
でもそれを履いても
彼の体温はそこにはないのだ。
想いは募る
彼の足跡を追えば追うほど
想いは募る
彼の母親の慈しみ深い眼差しが
おいらの心にも
とても暖かい何かを残してくれた。
消失の空気
空気感や映像からは良さげな雰囲気が漂ってくるけれど、自分でもびっくりするほど登場人物の行動と感情に寄り添うことができなかった。
おそらく十分な収入のあった夫を亡くし、母手一人でカフェの経営と息子のケアをしていかなければいけないアナトの苦労と寂しさは分かる。
しかしそれにつけ込むようなトーマスの行動にはモヤモヤしてしまう。
愛する人の消失からくる衝動的なものだとは思うけど、トーマスは何がしたかったんだ本当に…。
オーレンが愛した家族を知り、彼が好んで食べていたケーキやクッキーを彼の家族や街の人々に共有させたかったのかな。
レシピを伝えて、この先もずっとこの街にオーレンとトーマスの思い出の形が残るように?
だとしてもアナトが全てに気付いた時に一番傷付くようなことをしなくてもいいじゃない、とどうしても思ってしまう。
悪気が無いことも、彼自身が自分の行動について理解しきっていないことも伝わってくるのだけど。
そもそも、出張先でのありがちな不倫なわけで。
不倫を頭ごなしに否定する気はさらさらないけれども。
かなり美化した描き方がどうも気になって、もう少しその恋の苦しみの部分や葛藤を見せて欲しかった。
終盤に判明するオーレンの気持ちには少しグッと来たけど。
厳格なユダヤ教の食物規律である「コーシェル」に関する出来事が頻繁に見られる。
鑑賞後チラッと調べてみたら、その細かすぎるルールに笑ってしまった。
コーシェルに厳しく従うか少し緩く考えるかの采配でトーマスへの心の許し方が現れているのが面白かった。
特に誰かに反感を覚えることもないけれど感情移入することもなく、この物語を受け入れ難かったことが残念。
全体に流れる消失の切なさの空気は好き。
あと自分がお菓子やパンが全然好きではないので、綺麗に映し出されるそれらに全く惹かれなかったせいもあるのかな。
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