「愛することと喪うことの「影」を見遣る時」彼が愛したケーキ職人 ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
愛することと喪うことの「影」を見遣る時
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予告やポスターで抱いていた印象に比べてより生々しく、複雑な関係性や感情がメインの作品。
同じ男を愛した男と女。
一方は真実を知っていて、一方は真実を知らない。
その指先から、遺品の服から、言葉から、愛し方から、欠けてしまった故人のぬくもりや存在そのもののピースを、日常の中で突然見つけてしまい、戸惑いながらも生きていく様にこそ、細やかな彼と彼女の愛情と喪失感が垣間見える。
それにしても、そのピースを埋めるような意味合いがあるといえ、あの2人が一線超えちゃうのはびっくり…ええんかいなそれで…
終盤にかけて、人種とか宗教とかも深く絡んできて物語が動くわけだけど、みんな自分の信じるものとか愛する人のための善意で動いているんだけど、それが他人にとっては不幸になってしまう…みたいなもどかしさが辛い。
特にアナトとトーマスはどうやってもそうなるわけで…オーレンが本気でトーマスを愛していて、アナトに対しても誠実に向き合いたかったからこそ、どちらも傷つくことになってしまうからどうしようもないんだけども…
でもそんな中、トーマスの作るケーキやクッキーがどれも色鮮やかで美味しそうで、イスラエルの人たちも純粋に美味しく楽しんで受け入れていて、アナトもその味には惹かれていたわけで、食べること即ち生きることは万国共通なんだなあと。そこが救いだった。ベルリンのカフェもすごく可愛い。
それからドイツとイスラエルの関係性は、戦争が終わってもなお長く影を落としていることがよくわかり、自分の無知さを恥ずかしく思ったし、
ユダヤ教徒の生活がどんなものなのかが自然と織り込まれていて、その点は興味深かった。
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