劇場公開日 2018年4月28日

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「若き日のマルクス」マルクス・エンゲルス 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0若き日のマルクス

2018年5月7日
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鑑賞方法:映画館

知的

 学生のときに一度は「資本論」の読破に挑戦した人がいるだろう。かくいう当方もそのひとりであるが、残念ながら第一巻で断念してしまった。
 神保町の岩波ホールは歴史ある映画館で、本作品はその単館上映作品である。文化や教養の代名詞と言ってもいい岩波は、映画館でもアカデミックな作品を上映する。そのせいだろうか、観客に若い人は殆ど見かけなかった。ひとりだけ、母親と一緒に来ていた高校生くらいの男の子がいるのを見て、母親を褒めたい気になった。
 マルクス経済学を評価するようなことは、経済に疎い当方には荷が重すぎるが、彼の理論が世界的に大きな影響を及ぼしたことは知っている。ソビエト社会主義共和国連邦という国は、マルクスなしには存在しなかった。中華人民共和国も然りである。映画に登場するエンゲルスをはじめ、トロツキー、レーニン、毛沢東、カストロなど、マルクスの思想の流れを汲む人々が次々に世界の政治の中枢を占めている。ただしそれがいいことだったかどうかはわからない。
 作品は妻と娘を抱える若き日のマルクスが、生活に困窮しながらも一切の妥協なしで思想を深め、理論を広げようとする懸命な姿をひいき目なしに描く。仲良くしておいた方が有利な相手でも、理論的に間違っていれば平気で論破する。しかもとことん追い詰める。マルクスは人格的にはそれほどいい人間ではないかもしれないし、自分の人生設計には無頓着だったかもしれない。映画はそのあたりも遠慮なしに描き出す。
 しかしマルクスの評価はそういったことに左右されることはない。評価すべきはその理論であり著作であり、それらを確立した彼の人間エネルギーそのものである。若き日のマルクスは、権威や権力に屈せず、暴力さえもものともせずに、落ち着いた大きな声で自分の理論を主張する。その胆力と溢れ出すエネルギーは、生まれついたものとしか言いようがない。栴檀は双葉より芳し。偉人は若いころから偉大だったのである。
 役者陣は皆、達者である。特にマルクスとエンゲルスのそれぞれの妻役の女優は、ふたりとも品があって毅然としていて、一方で女らしさを存分に表現する。マルクスの妻を演じたビッキー・クリープスは5月26日に日本公開予定の「ファントム・スレッド」にも出演しており、鑑賞が楽しみである。

耶馬英彦