「アジア人によるアジア人のアジア人のための映画」クレイジー・リッチ! DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
アジア人によるアジア人のアジア人のための映画
いま世界中でベストセラーになっているケビン クワンの小説「CRAZY RICH ASIANS」をハリウッドで、アジア人監督、全員アジア人キャストによって作られた映画。興行成績は今年の8月に公開されて以来、連続第1位の記録を更新中。オーストラリアでも大人気だ。
この「CRAZY RICH ASIANS」は3部作の第1作目で、「CHINA GIRL FRIEND」が第2作目、3作目が「RICH PEOPLE PROBLEMS」で、3部作ともすでに出版されている。原作者ケビン クワンは44歳のシンガポール生まれで、エンジニアの父親、ピアニストの母親に連れられて子供の時にアメリカに移住したシンガポール人。
初めてハリウッドでアジア人による中国人の物語を描いた「JOY LUCK CLUB」から実に25年ぶりに2度目のアジア人によるアジア人の映画が作られたことになる。「JOY LUCK CLUB」が第二次世界大戦の悲惨な体験が淡々と描かれていたのに比べて、この映画は、ラブロマンスのコメデイ―だ。世界第1位の経済大国になった中国から来た人々のパワーをもろに見せつけられる。舞台はシンガポールで、そこに住むスーパーリッチな不動産王の御曹司と、シングルマザーに育てられたチャイニーズのニューヨーカーとの恋愛物語。
原作では伝統的な中国人の価値観と、アメリカ育ちの中国人の若い世代の意識の落差について、真面目に語られているが、映画ではそれを強調するあまり面白おかしく笑いを取るコメデイとして仕上がっている。
ストーリーは、
レイチェルはニューヨーク大学で経済学を教える教授。香港から移住したシングルマザーのケリーに育てられた。同じ大学で史学を専門にしているニックと恋人同士だ。
ある日、ニックにシンガポールに住む親友の結婚式に呼ばれているので、一緒にシンガポールに行こうと誘われる。喜んで休暇を取り、二人して機上の人となるが、乗り込んだ機内で案内されたのはファーストクラスの座席。レイチェルは何かの間違いだと思ってあわてる。しかしニックは笑って、せっかくの旅行なのだからこれで行こう、とレイチェルを説得する。
シンガポールで出迎えてくれたニックの親友コリンと、その許婚者アラミンタに会い、食事を楽しんあと、レイチェルは一人、昔のニューヨーク大学時代の親友だったペイク リンに会いに行く。ペイク リンの家はびっくりするほど立派な豪邸で、彼女は両親と兄弟家族と一緒に住んでいた。家族に暖かく迎え入れられたレイチェルは、恋人の名前を聞かれて、「ニック ヤングというの。」と答えた瞬間、家族全員が凍り付く。レイチェルの恋人は、シンガポール一の大富豪の跡取り息子だったのだ。エルメスを普段着にしているペイク リンの家族の面々は、ノーブランドのワンピースを着ているレイチェルが、そのままニックのお婆さんの家で開かれる晩餐会に行くつもりでいることに驚愕。そんな服でヤング家のパーテイーに出られるわけがない。新友ペイク リンはレイチェルに、デイナードレスを着せて、一緒に晩餐会に行く。
レイチェルはお城のようなヤング家で行われている贅沢なパーテイーに、肝を冷やしながら、ニックに家族や友人たちを紹介されて、委縮していく自分に気が気ではない。
ニックの母親エレノアと祖母は、レイチェルを迎い入れるが、冷ややかな空気は変えようがない。レイチェルに出来ることは、エレノアの指にある巨大なエメラルドの指輪を褒めることくらいしかない。
翌日はバッチェラーパーテイー。男達は、ヤング家の所有する島でバカ騒ぎ。レイチェルはニックの許婚者アラミンタの女友達とでバッチェロパーテーに加わる。しかしレイチェルはニックの昔のガールフレンドたちから嫌がらせを受け、ベッドに腐った生魚を入れられたりする。カルチャーショックと、ニックの恋人としての嫉妬ややっかみを受けて、傷つきながらも、レイチェルはコリンとアラミンタの結婚式の参列する。
しかしその夜、レイチェルはニックの祖母と母親エレノアに呼ばれて、レイチェルは母親が浮気して生まれた私生児だと言うことが調べで分かったので、そのような娘をヤング家に迎えるわけにはいかない、と宣告される。レイチェルは自分の父親のことを知らない。自分でも知らなかったことを調べられて知らされた上、たった一人の身内である母親を侮辱されて、レイチェルは親友パイク リンの家に駆け戻り、惨めな自分が情けなくて食べ物も喉を通らない。ニックに会う気力もない。
ニューヨークから知らせを受けた母親ケリーが、レイチェルを連れ戻しに来る。ケリーはレイチェルに、本当に事を話す。父親は暴力をふるうような男で、良い人ではなかった。昔好きだった人と再会して妊娠してしまった。その事を夫が知ったら大変なことになるとわかっていたので、夫にも恋人にも何も告げずにひとりアメリカに逃れるしかなかった。レイチェルを産み、苦労しながら育てて来たが、それが自分にとって何よりも喜びに満ちた人生だった、と母は言う。レイチェルは母親と二人でニューヨークに帰ることにする。
その前に、ニックにさよならを言うために会うと、ニックは跪いてレイチェルにダイヤの指輪をささげて、求婚する。ニックの母親と話をしなければならない。レイチェルはニックの母親エレノアを麻雀屋に呼び出して告げる。麻雀で私が勝ったらニックは私のもの。もしお母さんが勝ったらニックはお母さんのものです。レイチェルはそう言ってゲームを始めるが、レイチェルはわざと負けて、その場を去る。
レイチェルとケリーは、来た時と大違い、ニューヨーク行の格安エアラインのエアアジアに乗り込む。その機上にニックが飛び込んできた。ニックの母親エレノアの巨大なエメラルドの指輪を差し出して膝まずき、再びニックはレイチェルに求婚をする。
というお話。
コメデイだが、純情な二人の恋人たちに泣き、心温まるシーンで終わる。
それにしても、映画を観ていてつくずく感じたのは、アメリカ人も中国人もお金が好きな国民だということ。徹底した拝金主義、物質至上主義で、贅沢をして物質で豊かさを形で表さないではいられない国民性。アメリカ人と中国人って、とても似通っている。
映画でシンガポールの観光旅行を楽しむことができた。素晴らしいシンガポールの観光名所が全部出てくる。どでかいチャンギエアポート、マーライオンのパーク、5つ星のラッフルズホテルのコロニアルスタイルの優美な外観と、スウィートルームの贅沢なスペース、それと度肝を抜くマリーナベイサンズ ホテルのプール。このプールは、3つの高層ビルを空中でつないだ空中庭園の中にある。それとガーデン バイザ ベイのウオーターフロント公園で豪華な結婚式が行われる。ふんだんに花と水を使った、贅沢で見事な演出。これ以上華麗な結婚式はない、というくらい美しい。チャリーン、結婚式の費用だけで800万円。
ニックの親友のお嫁さんアラミンタを演じたソノヤ ミズノは、日本人とのダブルでファッションモデルでバレエダンサーだそうだが、背が高くてプロポーションが良くて絵になるような美しいお嫁さんだった。
これほど要所要所シンガポールの観光アイコンが使われているのに、意外なことに撮影のほとんどはマレーシアで行われたそうだ。ニックのお婆さんのお城の様な屋敷は、マレーシアの超高級ホテルだったカルコサス リネガラという歴史的な建物で、ニックのお母さんのモダンな海辺の家もマレーシア。コリンがバッチェラーパーテイーをしたのはマレーシアのラワ島、バッチェロパーテイーはランカウイ島だったそうだ。
アジア人の映画で楽しいのは、出てくる男達が美しいことだ。この映画でも主役のヘンリーゴールデイングが とても素敵。31歳、身長186cM。マレーシア人と英国のダブルで、イギリス育ち。彼にとってこれが初めての映画出演だというのだから驚きだ。これまでTVの司会や旅番組のホストだったそうだ。歩き方から食べ方、身のこなし方まで上品で美しい。
彼の親友役のクリス パンも素敵だし、ニックの従妹ジェマ チェンがとびぬけた美人だが、彼女のオットと元彼氏が、二人とも若すぎず、美しい肢体、渋い男の良さを体現していて忘れ難い。ピエル ペンと、ハリーシュン ジュニアという役者さん。いくつもの中国映画と韓国映画に出演しているに違いないので、記憶にとどめておこう。
主演女優レイチェル役のコンスタンス ウーは可愛い。でも美しさではニックの従妹役のジェマ チャンに及ばない。姿かたちと着こなしの良さではお嫁さん役のソノヤ ミズノに及ばない。また役者としては、レイチェルの親友を演じたオークワフィナに及ばない。オークワフィナは、話題作「オーシャン8」で、ケイト ブランシェットや サンドラ ブロックと共演して、大女優に負けない強い個性を見せてくれた。全く美人でないが、これからもハリウッドで活躍していく人だ。ヒップホップシンガーソングライターでもある。
準主役はもちろん憎まれ役ニックの母を演じたミッシェル ヤオだ。マレーシア人なのに中国映画と言えば、必ず彼女が主演だ。ゴング リーとか、チャンツ―ィ―が主役だったときはいつも重要な脇役を演じていて、流暢な英語を操るアジア人国際女優として不動の地位にいる。「クロ―チングタイガー」、「ゲイシャ」、「グリーンデステイ二ー」などに出演している。
そのハリウッドでもよく知られた大女優のミッシェル ヤオが、今回の映画でインタビューに答えて、自分はバナナだと言い出したのには とても驚いて考え込んでしまったよ。彼女がマレーシアで料理屋に連れて行かれた時、箸しかなくて、どうやって箸を使うか知らなかった。マレーシア人だが、その文化もしきたりにも疎い。アメリカで育ったアジア人はアメリカではアジア人といって差別と偏見にさらされ、アジアに行けば変な外人扱いをされる。欧米育ちのアジア人はみな、民族差別と差別の裏返し差別とでもいう立場で自分のアイデンティテイーに悩むものだ、と言っていた。とても共感できる。
アジア人による、アジア人監督と、アジア人キャストで作られたハリウッド映画ということで、これを観る欧米生まれ欧米育ちのアジア人は、欧米人とは全く異なった映画の受け止め方をしているのだ。アジア人だと、アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアメリカ国籍のアメリカ人でも、顔を見た人は、「あんた英語しゃべれるか?」と聞いてくるし、「あんたの故郷はどこだ?」と問われながら育って大人になる。
国民の4人に1人は外国生まれという移民でできたオーストラリアに居ても、同様だ。「どこから来たの?」「英語わかる?」がいつもついてまわる。それをいちいち「おい、あんたの言ってることは人種差別で、人権侵害行為なんだぜ。」と解説などはせず笑って受け流して生きている。そこに痛みは無いといえるか。
その意味で、この映画を観て、コメデイなのに泣いて見ているアジア人が多かった、というレポートが とても理解できるものだった。
世界一の経済規模を持つ中国。長年コーカシアンの男が中心だったハリウッドで、プロデユーサーワインズバーグのスキャンダルを切っ掛けに、女性によるミートウー運動、権利保障を要求する運動が起き、俳優を含む映画関係者のなかで女性やアフリカンアメリカンやメキシカンアメリカンやチャイニースアメリカンがたくさん居るのに、登用されていない現状を、覆す動きが盛んになってきている。21世紀になって、ようやくここまで来た。もっともっとマイノリテイーによる映画が作られなければならない