「ボールを拾いに播磨家に入った少年に対し、そこは「人〇の〇〇家」だと諭していたオープニングタイトル。」人魚の眠る家 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ボールを拾いに播磨家に入った少年に対し、そこは「人〇の〇〇家」だと諭していたオープニングタイトル。
たまにいい作品を作るから侮れない堤幸彦監督。『明日の記憶』に次ぐくらいの重いテーマで心揺さぶられた。とは言っても、時折冷ややかな視線を投げかけるように見てしまう場面もあったのです。田中泯演ずる爺ちゃんが一代で築いた会社は今や医療機器の先端を突き進むほどの組織となり、息子の播磨和昌(西島秀俊)が社長をやってる。いわば金持ちといえる家庭での事故。しかも役員会で反対されるほどその特権を生かし、先端技術を脳死の娘に与えているのです。これが普通の家庭だと・・・などと考えてしまいました。
そんな状況であっても、田中哲司演ずる医師のぶしつけな臓器提供の依頼などが組み込まれ、母親薫子(篠原涼子)への感情移入がしやすいようになっていました。かつての臓器提供は15歳以下の子供はドナーになりえなかったのが、2010年の法改正によって日本でも行えるようになった。この2010年を境に、子を持つ家族が意思表示しなければならないパターンが多くなったのでしょうね。
最近の医療現場では延命措置や胃ろうなど必ず同意書にハンコが必要ですし、生かすか自然死かは家族が決める問題となっています。植物人間になることが100パーセントわかっていれば、個人的には延命措置は要らないと思うのですが、人それぞれです。この作品では子供ですから、親としては奇跡を信じたい気持ちが十分理解できるし、ちょっと疲れ果てた西島秀俊や、学校で死人だと言われ、距離をおいてしまう弟生人の気持ちもよくわかる。本当に難しい問題でした。
ゾンビのように思われたこと。ニヤッと笑う装置まで作ったこと。わが子を守るために狂言殺人まで犯そうとする薫子の狂気。どうしても一歩間違えばホラー映画になりそうな展開を、踏ん張ってシリアスドラマとして持ちこたえた。堤監督はこんな荒業まで使いこなせるようになったんだと感心しました。また狂気を表現するために警察まで呼んで押し問答してみせる場面は見ごたえがありました。とにかく俳優たちの演技が上手い。このシーンだけで1点加点です。
人間は2回も死なない。じゃ、007は?ゾンビは?イエス・キリストは?と、どこかで突っ込みたくなる自分が恥ずかしいです・・・また、ラストシーンの空地で思い出しましたが、オープニングのタイトルが一文字一文字現れてきたので、ボールを探しに来た少年にそこは「人の家」と言ってるような気がしたのも事実です。