劇場公開日 2018年3月1日

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「誰の身にも起こり得る危険を突きつけると共に、偶然という名の奇跡をえがく」15時17分、パリ行き REXさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰の身にも起こり得る危険を突きつけると共に、偶然という名の奇跡をえがく

2019年3月8日
PCから投稿

泣ける

怖い

幸せ

他愛のない日常の選択が、ある一点で収斂して大惨事を免れたという偶然という名の奇跡。
三人の人生に時間の大半を費やしたのは、このヨーロッパ旅行が彼らにとってどんな意味を持っていたのかを描きたかったから。
彼らの普通すぎる日常を描くことで、テロのような危機が実はいつ巡り合わせてもおかしくないのだと恐怖させる効果があった。人は想定外の事象にであうと、必ず「まさか自分がこんな目に」と思うものである。

敢えてテロ事件の背景は描かず、彼らの目を通してのみ事件を描くことの臨場感。もし、私がここに居合わせたら?と自問しない人はいないだろう。

三人がいじめられっ子で問題児だったというところも大きなポイント。学校の校長には「いつか人を傷つける」とまで言われたスペンサーたち。
しかしスペンサーとアレクは人の役に立ちたいという義侠心を強烈に秘めていたし、サドラーは権力に巻かれず意見を堂々と言える強いハートの持ち主だった。
改めて人の本質を見極めることの難しさを感じたし、レッテルを貼ることで安心したがる大人たちの姿を浮き彫りにした。
それにもめげず、スペンサーが「いつか人のために」と思い続けてこなければ、この結果はなかった。

クリント・イーストウッドはよく「導かれた役割」というものを描く。
「グラン・トリノ」しかり「ハドソン川の奇跡」しかり。
パリ行きには全く乗り気でなかったにも関わらず、スペンサーらはその電車に乗った。助けた本人たちも不思議に思うこの成り行き。カトリックのスペンサーが神の導きを感じるのは至極当然のことだし、だからこそ本人たちを起用したことで、説得力が大いに増したと思う。
ほかの人間が演じたら、それこそ説教臭いアクション映画になってしまっただろう。

改めて振り返るが、この映画にヒーローは存在しない。一個人が、最大限自分のスキルを使って正しい行為ができるかを問う非常に道徳的な映画でもあり、理想の自分に近づく努力は決して無駄にならない、と背中を押してくれる映画でもある。

REX