「書きたいものを書いてみろ!」響 HIBIKI 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
書きたいものを書いてみろ!
ファンの方には大変申し訳ないのだが、僕は芸能関連の話題にとんと疎く、主演の平手友梨奈はおろか、
欅坂46というグループのメンバーも誰一人として顔と名前が分からないという体たらくである。
TVCM等で見掛けてるのかもだが、今日日アイドルグループも沢山あるようで、誰が誰やら儂にはもう……
あ、けどユナイテッド93とかチャイルド44ってグループいたよね! いない? あれ?
「芥川賞と直木賞にWノミネートされる破天荒な女子高生の物語」という内容を聞き、
はてそんな現実離れした作家をリアルに描けるものかしらと興味を持った次第。
そしたらこれが……いやはやメチャクチャ面白かった。
今年観た映画の中でも上位に食い込むくらいに楽しめた。
存在感のない主人公の幼馴染や、やや呆気無い幕切れなど不満点はあるのだが、
展開もキャラクターも徹頭徹尾楽しめたし、心を動かされた点も数多くあった。
...
まずもって、とことんブッ飛んでいる主人公・響のキャラが面白い。
多くの著名作家すら舌を巻く圧倒的な文才を持ちながら、自分の邪魔をする人間に対して
過剰なまでにバイオレントな抵抗をしてみせる彼女。相手が誰だろうが全く躊躇しない。
涼しい顔して蹴り食らわすわ指折るわ悪役レスラーになるわ、無茶苦茶である。
彼女は、自分の書くこと読むことを邪魔する人間を決して許さない。
自分の作品を認めてくれた人を不当に貶す人間も決して許さない。
そして、自分に嘘をついて書く人間にも我慢がならない。
彼女が他人の作品を容赦なくこき下ろすのは、「面白いものを書ける力があるのに、なぜそうしないのか?」
という苛立ちからであって、それはその人の力を認めて期待している気持ちの裏返しでもある。
終始無表情な役だが、演じる平手友梨奈の目力と立ち姿が良かった。啖呵を切る時も男前ね。
(油性ペンでツンツンする所はほっこり)
アヤカ・ウィルソン演じるリカもグッド!
彼女も人並み以上の文才はあるし、いつも明るくあっけらかんと振舞っているが、有名作家である
父親の七光りでチヤホヤされていると世間から揶揄されることに忸怩たる思いを抱えている。
何のバックグラウンドも無いのに文壇から絶賛される主人公にアイデンティティを揺るがされ、
敵愾心さえ覚えるが、同時に自分の作品を純粋に認めてくれる親友として、尊敬と感謝もしている。
下手をするとステレオタイプな悪役になりがちな設定だが、彼女の笑顔とその裏の苦悩は
あくまで等身大で親しみ易いし、響との決着やあの父との会話には胸が熱くなった。
...
文学賞をめぐり、他にも様々な作家たちが登場する。
何度ノミネートされても受賞に至らず、ジリ貧の生活を送りながらも書き続ける作家。
受賞で世間から注目はされたが、それ以降は方向性を見失い、惰性で書き続ける作家。
一流の才能や一流の執念でも全く届き得ない化け物じみた天才と、他の作家たちの対比、
そして文芸のビジネス的側面を通し、この映画では幾つかの問いが語られる。
表現者の人格と作品はどこまで切り離して考えるべきなのか?
賞を獲った作品の価値が絶対で、その他の作品は無価値なのか?
そして、ここがこの作品の肝だと思うのだが――
作家はいったい何の為に作品を書くのか?という点。
金の為、名声の為、勝利の為、世に認められたい為、自己表現の為……
色々と理由は浮かぶし、それも動機の一部かもしれない。
だが、それらはすべて副次的なものでは無いのか。
いちばん最初に「書きたい」と思った理由は何だ?
そして「書き続けたい」と思った理由は?
突き詰めれば、その答えはきっととても単純だ。
ただ「書きたい」と思ったから。
そして自分の書いたものを読んで、
「面白い」と言ってくれる人がいたから。
主人公の響は、書きたいものがあるから書く。
それが他の誰かの心に響いてくれれば嬉しいと思いながら書く。
周りがあれこれ思い悩んでいるのに対し、彼女は清々しいくらいにシンプルだ。
彼女は、書くにも読むにも自分を楽しませてくれる、文学という存在そのものが好きで好きで堪らないだけなのだ。
...
他人の言うことなんて一度忘れてしまえ。
自分が書きたい理由を思い出せ。そうして、
自分の書きたいものを書いてみろ。
言うまでもなく、これは文学に限った話ではない。
なぜ撮るか、なぜ描くか、なぜ歌うか、なぜ踊るか、なぜ造るか。
世界で1番になれなくたって、いや100万番にすら入れなくたって、
それが自分の心や自分の周りを少しでも明るく照らしてくれるなら、
それはもうそれだけで、十二分に愛する価値があることじゃないか。
この映画は、自分の好きなものを、
もう一度好きになるチャンスをくれる映画だ。
秀作だと思います。大満足の4.0判定で。
<2018.09.29鑑賞>