「生活は裕福になっても心は貧しい」ラブレス とえさんの映画レビュー(感想・評価)
生活は裕福になっても心は貧しい
これは、いろいろと考えさせられる映画で面白かったなぁ
現在のロシアの中流家庭の夫婦事情が描かれている作品
ロシアの家庭事情を見る機会があまりないので、彼らの生活を見ているだけでも面白かった
2012年10月のサンクトペテルブルク
ボリスとイニヤの夫婦は、それぞれに新しいパートナーがいて一日も早く離婚したいと考えていた
彼らには、12歳になる息子アレクセイがいるのだが、互いに引き取ることを嫌がり、口論になってしまう
そして、アレクセイ本人が「アレクセイを押し付け合う両親」の口論を聞いてしまい…
ここで描かれるのは、包み隠すことのない、夫婦の赤裸々な本音
二人とも自分のことしか考えていないエゴイストで
二人の間にいる子供のことよりも、自分と新しいパートナーとの生活の方が大切
そして、そんな夫婦の元から息子のアレクセイが失踪してしまう
そこから、物語は一気にサスペンス色が強くなっていく
私は、常にいがみ合う夫妻を見て、長い冷戦の間、貧しい生活を強いられた国民は、心も貧しくなってしまったのではと感じた
それは主人公夫妻だけでなく、社会生活からも感じられる
夫が勤務する会社でも
「上司の言うことを聞かないとクビになる」とか「ランチは全員同じ物を食べる」とか、共産主義の名残がそこかしこに残っている
その反面「家出人捜索のボランティア」が「警察より優秀」であり、警察は日々起きている事故や犯罪を追うので手一杯だというのも、荒んだ世の中を表しているのであり、
家出人捜索ボランティアの組織化された手際の良さは、経験値の高さ、アレクセイのような家出少年の多さを感じさせる
そこから、ロシアで起きている犯罪の多さは、共産主義がもたらした負の遺産なのではと感じた
彼らは自由な生活を知らず、いきなり抑圧を解き放たれた開放感から、欲望のままに生きるようになってしまったのではないか
そして現在、ウクライナが東西に分かれる内戦が起きており、ロシアの国民は、そのニュース映像にかつての自分たちの姿を見るが、まるで他人ごとのような気分で、それを眺めているのである