「どこかのオムニバスとはひと味もふた味も違う!」クソ野郎と美しき世界 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
どこかのオムニバスとはひと味もふた味も違う!
よくできたオムニバス映画である。限りある製作費の中で、とにかく"ヒト"にお金が掛かっている。出演者・スタッフに一流を揃え、単なるファンムービーの域を超えている。
元SMAPの稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の"新しい地図"は、ファンクラブ名なのか、活動ユニット名なのか、はたまたマネージメント事務所なのか。ファン以外の一般人には知る由もないが、ようやく本格始動のひとつであろう。
伊右衛門のTVCMで、草彅剛が本木雅弘と共演しているのを観るにつけ、妙に落ち着かないが、まさにこれが独立の象徴だったりもする(どちらも元ジャニーズ事務所)。SMAPが2016年末に解散をして、早一年が経った。
本作は稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人がそれぞれ主演する3つの短編と、その登場人物が勢ぞろいするエピソードで構成されるオムニバス映画。4つのオムニバスは監督が異なり、園子温、山内ケンジ、"爆笑問題"の太田光、児玉裕一が務める。映画監督としては園子温だけで、他は異ジャンルの演出家と呼ぶべきか。
似たようなオムニバス映画では、昨年公開されたTHE BLUE HEARTSの楽曲をテーマに6人の監督が短編を撮った「ブルーハーツが聴こえる」(2017)、LDH(EXILE HIRO)と別所哲也のコラボ企画「CINEMA FIGHTERS / シネマファイターズ」(2017)などが記憶に新しい。それらと比べても、1つの作品としてまとまっている。
たいていオムニバス映画は、良くも悪くも"寄せ集め"である。もちろんキラリと光る1本があったりもするが、ひとまとめで評価できるかというと、はなはだ疑問が残る。失礼ながら、企画プロデューサーのマスターベーションに過ぎない。
本作は1本すっと筋が通っている。それは4つ目に3つのエピソードをつなげる仕掛けがあることと、全体の構造方針を企画プロデューサー多田琢、山崎隆明、権八成裕(ごんぱ なるひろ)の3人が固めているからだろう。
なかでも原案クレジットされている、クリエイティブディレクター多田琢によるところが大きい。各エピソードは、脚本も監督が担当しているが、監督は原案に沿って作品を組み立てている。
とくに園子温監督は、自分のカラーをよく出している。フジコの逃走アクションは雑だが(笑)、"オンナ祭り"みたいな演出は、実に園子温らしい。
太田光の監督作は実にまじめである。"指をつめる"ヤクザと、"臓器移植"ならぬ"腕の移植"という突拍子もないアイデアだが、野球少年のキャッチボールと命のリレーを掛けている。余談だが、尾野真千子のキャッチボールシーンで、いわゆる"女の子投げ"ではないところに妙に感心した(サービスカットでは違う!)。
映画全体としては、香取慎吾が主演と呼べるかもしれない。香取のエピソードがいちばん尖がっていて、コメディとしての完成度が高い。劇中で香取自身の絵画作品を活用していることや、さらにエピソード4での「新しい詩(うた)」の歌唱とレビューも香取が担当する。
▪️エピソード1:「ピアニストを撃つな!」(約22分) /監督・園子温/主演・稲垣吾郎
▪️ エピソード2:「慎吾ちゃんと歌喰いの巻」(約29分)/監督・山内ケンジ/主演・香取慎吾
▪️ エピソード3:「光へ、航る」(約25分)/監督・太田光/主演・草彅剛
▪️ エピソード4 :「新しい詩(うた)」(約20分+エンドロール) /監督・児玉裕一/主演・クソ野郎★ALL STARS
(2018/4/6 /TOHOシネマズ日比谷/ビスタ)