劇場公開日 2018年2月27日

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「時代を経た淫獣」触手 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5時代を経た淫獣

2020年7月11日
PCから投稿

80年代に日本で触手というエロジャンルが発明された。輸出されるとTentacleとなって浸透し、hentaiカテゴリの一枠を確立した。
触手はもともと宇宙企画や前田俊夫のアニメだったが、AVへ移行すると実写版になった。

ただし、実写になってしまうと、とうぜんハリボテ感は拭えない。
エドウッドに、ベラルゴシ(の代役)が池でぬいぐるみの大ダコと格闘する映画があるが、触手の実写版とは、それと五十歩百歩であった。

この映画は、触手の実写版と解釈するなら、本気なクオリティを持った、はじめての作品だった。造形も動きもリアルで、個人的には30年越しで、淫獣学園の溜飲が下がった。

ただし、エロで釣ろうとして「触手」と邦題されているが、元来その意図を持っていない映画である。
むろん性的魅力があるのは間違いないが、この映画の主目的をかんがみると、触手はむしろ副産物だ。

原題はLa región salvajeで「野生の地域」と自動翻訳された。
英題はThe Untamedとなっていて、飼い慣らされていない獣──の感じだった。
となると触手とつけてしまった配給元の暴挙はいつものことであるにしても、じっさいに触手を想像していた自分が、にわかに恥ずかしくなってくるのである。

映画の主題は、未知の暗獣が、快楽と同時に破壊をもたらす──ということである。それは哲学的に昇華されるわけではないが、有機的な主題になり得ている。
いわば、全身を委ねることのできる架台を備えた可変全自動のディルドが、殺人をもおかすのであって、それに委ねた者が、快楽を与えられるか、殺されるかは、獣の意思次第である──と映画は言っている。

するとこの製作者は、およそリヨン伝説フレアを参考にしているはずもないのであって、つまり──そういう「たぐり方」をしていった自分が、にわかに恥ずかしくなってくる──わけである。
ただdefenseすると、触手と名付けた配給元の思考回路も、同格である。わざわざポルノに貶められて配給された気の毒な「邦題の犠牲」映画のひとつ──になった。

映画は過大に言えば哭声やジョヴォーダンのような雰囲気すら持っている。日常と夫婦の倦怠がリアルに描写されているし、佳景をゆっくりパンするスピード感で、長い触手もゆっくりパンする──手練れの撮影だった。
はっきりとは落とさないが、触手の獣をカリカチュアとし、社会の底辺においては、ひたすらおまんこするか死ぬかしかない──と映画は結論している。個人的にはそう感じた。

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津次郎