「韓国はこんな素晴らしい映画が製作できて羨ましい」タクシー運転手 約束は海を越えて はなくそさんの映画レビュー(感想・評価)
韓国はこんな素晴らしい映画が製作できて羨ましい
この映画、上映時にポスター見て気になっていたが、当時はソンガンホも知らず(その何十年前にシュリで見ていたが結びついていなかった)、しばらく韓国映画を見ていなかった。
見ておけばよかった。ホントに。
私の場合は、最初にこの映画のポスターを見てずっと心に残っていたものの映画館で観る機会を逃し後悔していたところ、この映画のヒットの影響だと思うのですがソンガンホ主演の『密偵』(素晴らしいが内容は一応抗日映画なので好みがわかれるかも)がリバイバル上映されたので拝見し、その映画製作と演技の質の高さに打ちひしがれて、改めてこの映画をDVDで観ました。個人的には彼の出演作は大抵好きですが、この映画はダントツに好きです。その後はソンガンホ主演の映画を続けてDVDで見まくって、1年後にパラサイトの受賞って感じでした。この映画とはそういった出会い方でした。
事実を元にした映画だが、演出としてフィクションも入れつつ盛り上げと物語の理解に貢献させ、冒頭の変に軽くてインチキ臭いハウス調ミュージック(あれチョーヨンピルの歌だってことも驚きなんだが)を歌うソンガンホの軽妙なコメディータッチから始まり、シリアスな部分、義理人情噺、家族愛、カーチェイス、ストーリーのギアーの緩急の付け方、商業劇場映画の美味しいところをふんだんに詰め込んで素晴らしい映画です。
ダラけて腑抜けた姿、お気楽な姿、国を一方的に信じて疑わない小市民、信じられない現実が理解できない姿、子供が恋しい姿、怖くて逃げだす姿、全国的には全く伝わっていない異常さが身に染みる瞬間、平凡な生活に戻ってももう戻れないお気楽な時間、見たものを押し殺し平然を装い子供を育てていく覚悟。いろんな多重であり普通のどこにでもいるインチキ臭く汚いおっさんの顔と背中。
ソンガンホという俳優、彼は間違いなく名優です。
この脚本と言い、資本と言い、製作といい、素晴らしい。
対して、この日本にも、もちろん題材はたくさんあるのに、怖がって作れない。当たり障りのないテンプレ・クソ映画ばかり作り過ぎて技術も劣ったのか?非常に羨ましい。
何かあればエセ右翼(あんなのは右翼でも保守でもない)の圧力で上映が中止されたり、裏から政治家がご意見を挟んだり、そうなるものと1ミリでも予測されれば、資本は集まらないは、集まっても本の改変を求められて毒抜きされるは、責任は取らないは、ロクなものではない。制作も上映側も誰も覚悟が無い。
私の子供のころは日本でも戦争映画がたくさんありました。一見肯定的なもの、被害者感覚なものあれば、南洋の基地に居る慰安婦が出てくるものも普通にありました。見ごたえのある大作も多かったです。何を憚っているのか前面に高級軍人を描くものは役所さんが演じるもの数個以外はなかなか見かけない。
もっと日本もたくさん描いてほしい。
そしてこの映画やアメリカ映画みたいに、社会や国家の失敗を見つめるものを作る勇気を持ってほしい(アメリカのカッコよさはココだと思う)。
硫黄島やMINAMATAを他国に作られて悔しいったらない。なぜ日本には自ら作れなかったのか?作れないよな、わかってるヘタレ日本のカッコ悪さ。残念だ。ますますその傾向が強くなっている。映画にかかわらずTVも商売もクレームなんぞ無視すればよいのに。
そして金出せ、口は出すな、当たっても金を出す号令を出した自分の手柄にするな。
口から出まかせのSDGsとかエコとかホザく前に映画・コンテンツ産業に金出せ。
文化発信は戦争の弾込め準備に勝るとも劣らない、勝つためには重要だぜ。いい加減に韓国見たら誰でもわかるだろ?
なお、市民側が軍隊やKCIAなど当局に暴力を振るわれたが、市民側も武器庫を強奪して戒厳軍と戦った事実を知っている人の多くは、どっちもどっちだとか、治安維持的に仕方がないとかいう意見もあると予想できますが、この映画で描かれる市民への暴力が先です。この後に我慢できない市民が武器庫を強奪し武力によって市街から軍を一時的に追い出しました。
光州事件の前と後では生き方が違うという描き方をする韓国映画は結構あるものの、匂わせやセリフの一言で描き、事件を知らないと何となく見逃してしまうかもしれないものも多いです。そういったものは事件を知らないと深みがわかりません。そういったいろんな韓国映画をもっと理解して楽しむという意味でも光州事件は知るべき知識で、この映画は見ていた方が良いでしょう。
この映画で描かれた広場で発砲を始めた日の出来事。実は日本の朝日新聞の記者もこの映画のドイツ人記者と同じように現場で写真を撮っていた事が数年前分かりました。死去後に遺族が遺品を整理した際に、今更当時の生々しい写真が出てきて遺族が驚いたみたいな感じの仕方で、昔の韓国は大変だねみたいな視点で報道は少ししかされませんでした。なぜそこにあるの?っていう視点は全くなく。
もちろん当時の朝日新聞はこのスクープ写真を報道していませんし、写真が出てきても無視しています。大変な中取材を行って報告もせず個人の裁量で出さないという事はありえないので、新聞社が揉み消したのでしょうね。そんな新聞社が左翼でアカで革新派でジャーナリズムなのでしょうか。この事だけでなく未だに旧特高警察である検察特捜部と仲が良く、戦前から官製リークを流して世論を操ることに加担したりする新聞社のどこが左翼なんだか、世間の評価も含め何に操作されてんのか、ちゃんちゃら可笑しいです。
光州事件は日本も全く関係ないのではなく、その隠ぺいに国や新聞社も加担していたのです、欧米メディアとは異なり。世間的に未だにこの事実を無視していますが。日本って国は自国の事も他国の事も、シレっとそういう事する国でもあります。そういったことも忘れないようにしないといけません。
このことを題材に映画にしてもよいのに。
ちなみに韓国映画を色々見てきて、改めてこれを見ると、ああここにあいつ、ここにもいる、いい演技だよねー。こいつこんなちょい役で出ているのかぁとか。思ったりする楽しみも増えます。
ああガンホもいいけど、ユヘジン的な演技のギアーの入り方もいつも味があるねぇとか。
てかオムテグ、いまいち売れないよなぁ。とか。