「何が事実であるかが重要な映画」タクシー運転手 約束は海を越えて piさんの映画レビュー(感想・評価)
何が事実であるかが重要な映画
この映画の中で、事実と一致する事はどれなのか。そこがかなり重要になってくると私は思う。
ドイツ人記者が日本から韓国に渡り、タクシーを使って光州に向かい、そこで記録した映像を持ち帰って世界に発信した。
それが事実。
ドイツ人記者を乗せたタクシー運転手がいた。それが事実。
だが、タクシー運転手の背景はどうだろう。子煩悩で娘と二人暮らしで家賃を払うのも苦労している。だから金目当てに他人の仕事を奪って客の送迎に向かう。
それか事実かどうかは分からない。
この映画は、タクシー運転手を中心に描かれているが、この映画を作った段階で彼の正体は分かっていない。ドイツ人記者の証言をもとにして作ったにしても、彼の普段の人間性や光州に戻った本当の理由はもしかしたら別のところにあるのかもしれない。真実は殆んど分からない。なのに彼を中心に描いている。
本来ならば称賛されるべきはドイツ人記者の方で、彼の真実を伝えようとする行動が無ければ何も起こらなかった。タクシー運転手はただ受け身でいただけに過ぎない。特に称賛されるような事はしていない。ただそこにいて、周りに合わせて感情のままに動いた。それだけだ。しかもその感情も製作側の想像にすぎない。極端に言うならこれは幻だ。なのにその幻をあたかも真実であるように中心に据えて描いている。戦友のような形でドイツ人記者と同等に描くならともかく、記者の扱いがあまりに軽い。
しっかりと作られている映画を偏見のような気持ちで見たくはないが、韓国人による韓国人の為の自国民称賛映画だとしか思えない。ドイツ人記者を称える描写がまったくない事と、最後にドイツ人記者本人が運転手の事を語る動画が付け加えられているのが本当に気持ち悪い。吐き気がする。