劇場公開日 2019年5月3日

  • 予告編を見る

「いろいろと無理がありすぎる」ザ・フォーリナー 復讐者 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5いろいろと無理がありすぎる

2025年7月14日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

難しい

ジャッキー映画では『THE MYTH 神話』ぶりに地元の映画館に来なかったのでレンタルDVD視聴。原作はイギリスのスティーヴン・レザーという小説家の『チャイナマン』という1992年の小説。アクション映画というよりポリティカル・サスペンス映画に近いが、その割には娯楽アクションもあってなんだか中途半端な作品だ。うーん、あんまり面白くなかった。

まず第1にジャッキーは実質的に主役ではない。最初こそ主役っぽく登場するが、ピアーズ・ブロスナンと接触するあたりからお話がブロスナン中心に展開していき、ジャッキーは脇役みたくなって実質的にブロスナンが主役みたいになってしまう。観終わってから原作を読んだ人の感想を探すとどうやら原作からしてそうらしく、『チャイナマン』というタイトルなのにIRA(中国・香港・日本公開版の映画ではUDIという架空の組織に変えられている)内部の話が中心でチャイナマンはタイトルになってるのに脇役みたいだとか、映画は大枠で原作に忠実だとあった。

第2に原作が出版された1992年と映画が公開された2017年では25年も経って時代も状況もかなり異なるため、ところどころ不自然な話になっている。1992年には北アイルランド紛争は継続中だったが、1998年にベルファスト合意に基づいて和平合意が行われ、2017年にはもう紛争は終結しているし、主人公が軍人時代の戦闘術を使えるのも原作ならベトナム戦争終結から17年後だからぎりぎり納得できるが、映画では40年以上経っており、60過ぎた爺さんが20歳の頃の高度な技術を昔取った杵柄で即座に使えるというのにはかなり無理を感じる。ちなみに原作では主人公は中国系ベトナム人(ベトナム華僑?)という設定らしいが、映画ではジャッキーに合わせてかベトナムと国境を接する広西チワン族自治区の中国人になっている。原作では主人公は最初に北ベトナム軍だか南ベトナム民族解放戦線(いわゆるベトコン)に入り、そこから南ベトナム軍に投降し、さらに米軍特殊部隊に入るといった流れらしいが(ベトナム人が米軍に入れるのかという疑問も感じるが)、映画では米軍特殊部隊にいたということがちょっと触れられるだけで、そのあたりはうやむやにされている。中国人がベトナム軍や米軍にどうやって入ったんだろうか?(なお原作からして、ベトナムからわざわざ地球の裏側のイギリスに亡命するのも極めて不自然だが、なぜそうなるかといえばイギリスの小説だから・笑)

第3に、いくら娘を殺された復讐のためとはいえ、第三者的(裏でIRAとつながっているとはいえ)な副首相に周辺爆破などの脅迫をしてまで犯人の名前を教えるよう迫っていく主人公は、偏執狂的過ぎて行動原理が理解不能であり到底感情移入できない。やってることはほとんどテロリストといっしょだし、途中からはなんだか主人公が横から邪魔するおかげで副首相によるテロリストの始末がスムーズに進まないように見えてきてしまう。そもそもこの主人公は終始無表情で何を考えてるのかわからず不気味きわまりない。娘を殺された絶望感を表現するためにそういう芝居になったらしいが、むしろアジア人というのはいつも無表情で何考えてるのかわからんという欧米人のステレオタイプな人種偏見が表れてるように感じられた(原作のタイトルである「チャイナマン」という言葉も現在では人種蔑視・民族蔑視のニュアンスを含んだ侮蔑的表現とされることが多い)。残念ながらどうにもいまいちの映画でした。

バラージ
PR U-NEXTで本編を観る