「.」パシフィック・リム アップライジング 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。五年振りとなる続篇。前作『パシフィック・リム('13)』では戦闘シーンを始め、物語が動くのは雨の降る夜が多かったが、本作では殆ど昼となった。肝となる戦闘シーンは、ゴチャゴチャした画面で何が起こっているのか判り辛く、車が変形する某シリーズの様である。“イェーガー”が飛翔するのも戴けないし、デザインも没個性でイマヒトツ。kaijuも前作と打って変わって魅力に欠け、後半で合体すると云う、一時期のアルバトロス配給作やアサイラムの様なまさかの展開。待ちに待った続篇だったが、どうやら想い描いてたのとは違う物になってしまったようだ。50/100点。
・冒頭、"UNIVERSAL"~"LEGENDARY"と電脳っぽくカスタマイズされたカンパニーロゴ~前作をサラッと振り返り、導入部で世界観や背景を伝え、その十年後を描く。わくわく感は大凡15分程度で収まり、その後は詰込み感満載で未整理な儘、散佚で的が絞り難い残念な展開が延々と続く。誤魔化された様な後味が残ると共に次作以降へと含みを持つ幕引きがなされるが、これも締まりが悪いと云う一言に尽きる。
・暴走する白い機体の量産型“ドローン・イェーガー”は、その儘“ヱヴァンゲリヲン”を彷彿させる。この“ドローン・イェーガー”は暴走後の方が、外観のデザインも含め、圧倒的に魅力的である。今回登場する中では、黒い謎のイェーガー“オブシディアン・フューリー”のデザインが一番の好みであった。
・レジェンダリーを買い取った彼の国の影響は至る所に散見出来、スタッフ・キャストは勿論、“シャオ産業”を始めプロットのディティールに迄滲透しており、画面のあちこちに中文が数多く見受けられる。亦、製作の裏側で起こった買収等を巡るゴダゴダは、本作自体に影を落とし、G.デル・トロは、別の企画『シェイプ・オブ・ウォーター('17)』に軸足を移し、正に怪我の功名、禍を転じて福と為すの言葉通り、結果的にそれにてオスカーを手にすると云う成功を納める。当初、本作の公開は'17年8月4日に予定されていたが、'18年2月23日に約半年間、延期を已む無くされた──これも製作時の混乱が与えた影響の一つと云えよう。
・前作同様、日本人、中国人、ロシア人に加え、東南アジア系、インド系等も含めたアジア人がキャストに目立っている。特に中華は資金に比例するかの如く、重要な役所が多く、逆に前作から引き継いだ“森マコ”役、菊地凛子の扱いはお座成りに見え、新しく加わった新田真剣佑の“リョウイチ”は注視しなければ気附けない程度の出番で、搭乗する赤い機体のイェーガー“セイバー・アテナ”の見せ場もほぼ1シーケンスで終わってしまう。
・イェーガー“ジプシー・アベンジャー”が大気圏突入時、構造上の限界を超越しているとの警告がなされ、実際に機体の一部が燃え尽き始めているが、バイザーが壊れ、低圧環境をものともせず、剝き出しになっているにも関わらずパイロット二人にはダメージは見られない。亦、富士山の描写に違和感があり、実際どの季節においても、本作で描写された程、裾野に雪が残っている事は有り得ない。亦、東京と富士山では130km以上離れており、描かれた短時間内での移動は無理だと思われる。
・他にも気になるシーケンスや明らかなグーフシーンは、度々散見出来たので、これら細部の矛盾や綻びはエンターテインメントとは云え、鑑賞の妨げとなる程の気掛かりとなってしまったので、総じてご都合主義的と云わざるをえない。云い方を変えれば、それらに眼を瞑れる、或いはそれらを忘れさせる程の魅力が本篇には無かったのだと思う。
・C.スピーニー演じる“アマーラ・ナマーニ”が、嚙み潰されたイェーガー“ブレーサー・フェニックス”から脱出ポッドで排出され、不時着した「くすり」と書かれた看板が在るビルの前には、グレー色した“ユニコーンガンダム”の銅像が設置されている。続くシーンで他のパイロットが駆け寄り、ビルの一角が写し出されると、そこには“AE”のロゴと共に“アナハイム・エレクトロニクス”との社名が掲げられているのが判る。
・仕切り直しとなり戦闘を開始した直後、合体した“メガ・カイジュウ”により、イェーガー“ジプシー・アベンジャー”が吹き飛ばされた先にある電光掲示板に写し出されているのは、カメオ出演となったS.S.デナイト監督自身である。
・鑑賞日:2018年10月14日(日)