「妻は名花の如く」妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
妻は名花の如く
すっかりお楽しみになった山田洋次監督の新たな喜劇シリーズ。その第3弾。
いきなり感想。今回も面白かった!
安心して楽しめるとはまさに本作のような映画の事。
でも、平田家にとっては安心とは程遠い。三度、問題発生!
熟年離婚、無縁社会と来て、今回のテーマはズバリ、“妻”!
家族皆が留守中、長男の妻・史枝は日々の家事の疲れで、ついウトウトと仮眠を。そこへ、泥棒が…!
史枝自身に被害は無かったものの、コツコツ貯めていたかなりの金額のへそくりを盗まれてしまった。
それを知った夫・幸之助は激怒。史枝を責める。
史枝は家出をしてしまう…。
周造と富子の老夫婦が家事を担当するが、富子が腰痛でダウン。周造は馴れない家事に悪戦苦闘、ボヤ騒ぎまで起こしてしまう。
史枝が居なければ、この平田家は…。
長男の妻・史枝にフォーカス。
前作も前々作も(同キャストの『東京家族』の時からも)思っていたが、本当に良く出来た嫁である!
常に義父母を気遣い、夫を支え、二人の子供を育て、長女や次男の妻の相談にも乗る。
掃除、洗濯、食事…日々の家事は怠らない。
私なんぞ家事は休みの日にちょっとやるくらいで、すぐ趣味(映画鑑賞)を優先してしまう。やらなきゃいけないのは分かっているけど…。
それらを全部一日でこなし、毎日やる。
それがどんなに大変な事か!
これでも少しは分かっているつもりである。
縁の下の力持ち…ではない。真の“大黒柱”!
夏川結衣が好演。
“平凡な主婦”という“難役”を見事に演じている。
史枝も本当は外に出て働いてみたい。昔習っていたフラメンコをやりたい…。
そんな本心を押し殺し、全ては家族の為に。
本シリーズにはタイプの違う女性が出てくるが、最も惹かれるのは、史枝である。
こんな女性が奥さんだったらなぁ…。
それなのに、幸之助は!
いつもならひねくれ頑固亭主の役回りは周造だが、長男・幸之助へバトンタッチ。
と言うか、頭の禿げ具合とその困った性格だけはしっかり受け継いだと言っていいくらい、そっくり父子。
亭主関白。男は仕事、女は家庭の昔気質の考え。口から出るのは嫌味や皮肉だけ。…やれやれ。
でも、本心ではない。言ってしまって後悔。素直になれないだけ。
自分もそういう所あるから分からんでもない。
だけどね、幸之助さん、
「俺が汗水垂らして働いている時昼寝とはいいご身分だな!」「俺が稼いだ金だぞ!」「俺が食わしてやってるんだぞ!」
これを言っちゃあお仕舞いよ。
警部補・田○正○におデコを叩かれて反省して欲しいくらい。
家族てんやわんやだが、一番可哀想なのは子供たち。
「僕たちの両親は愛し合ってないの…?」
動揺を隠せない子供たちに、次男の妻・憲子が史枝から聞いた馴れ初め話が何とロマンチックな事!
愛し合ってない訳じゃない。
寧ろ、今も愛し合っているからこそ、問題が発生するのだ。
これが冷え切った夫婦ならお互い無関心で何も起きやしない。
夫は妻の有り難みを充分感じている。だけど今更、口に出して言えない。
妻はそんな夫の不器用さをちゃんと分かっている。でも、時には口に出して言って欲しい。
この焦れったさ、もどかしさ!
日本の夫婦の姿。
だからこそ、愛おしい。
家族会議、ちょっとしたやり取り、間…監督の演出とキャストたちのアンサンブルはもはや名人芸。
とある名作や名匠へのオマージュも。長男・幸之助と次男・庄太が深刻な話をしている背景で、賑やかな人々。明暗の対比は黒澤明の『生きる』。そのシーンで二人が同時に喋るのは、市川崑の十八番の名手法。
シリーズサブレギュラー、毎回役所が変わる小林稔侍、笑福亭鶴瓶、笹野高史の今回の役柄は…、見てのお楽しみ♪
ちと残念だったのは、橋爪功が今回控え目だった事と、前回揉めに揉めた周造の運転問題がいつの間にやら解決しちゃってた事。ひと騒動作れただろうに。
冒頭でも述べた通り、安心して楽しめるという事は、笑いも展開もほとんど予想出来る。
ネタバレってほどじゃないけど、幸之助と史枝の夫婦関係も。
だけどこの、落ち着く所に落ち着く作りが心底心地良い。
笑って、身に染みて、ジ~ンとさせて、ほっこりと。
雨降って地固まる。
今回の鰻重(特上)の味は格別だろう。
シリーズ物と言うより、一本の作品としても上々。
そして最後は、次作への伏線…!
こりゃ次作も楽しみ!
…と思ったら、来年はナシ。残念!
その代わり来年は、まさかまさかの寅さんの新作が…!
寅さんを好きになって、寅さんを劇場で観れる事は無いと思ってたのに、それが叶うとは、夢みたいじゃ…。
その後でもいいので、平田家の続きを!
terumin31さん
コメントありがとうございます♪
このシリーズもすっかりお楽しみになりましたね。
この3作目もいいですが、自分は2作目が一番好きですね。意外な感動や考えさせられるテーマもあったので。
寅さん新作は待ち遠しいです!
その後でいいので、『家族はつらいよ4』も見たいですね。
山田監督、まだまだ精力的!