「YA・O・I」台北暮色 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
YA・O・I
高崎映画祭にて鑑賞。
ストーリーの2/3位以降で動き出す気配を見せての、でも結局何も起らない展開である。なのでこの手の作品が一番好き嫌いが分かれるのではないだろうか?自分がどうかというと、実は自分もよく分らないというのが実感である。決して嫌いではないのだが、しかし自分の読み解き力の貧弱さも又痛感させられるので、感情を上手く飲み込めず口の周りを汚してしまうイメージである。今作品が決して親切ではないことは充分理解したのだが、だからといって不思議と拒絶感は感じない。まるで環境映画のようなカテゴリなのかと思ったりしたのだがそれとも違うような・・・ だから、表題の『やおい』が一番しっくりしたのである。“ヤマなし 落ちなし 意味なし”と言えば、制作側が異議を唱えるだろうし、それなりに緩やかな展開はあるはあるのだが・・・
ヒロインがこれまたまるでモデルだし、そのパトロンである男の大胸筋等も含めて、今の台湾のセレヴ感がかなり強い。それに引っ張られる様に、この群像劇の他のパートもそれ程猥雑で不衛生な負の部分の台湾の影がみえてこない。本来ならばもっと多湿な気候がスクリーンに映し出す筈なのだが、まるで日本のようなイメージである。しかし、台湾の人達の家族主義的行動、占いや儀式を重んじるさりげないシーンや台詞、しかし、そんな古えの迷信と対比するような、近代化される街並、そして崩壊ギリギリの家族といった今の台湾の現状を丁寧に演出している点は興味深い。鳥と自分の境遇の親近感を抱きながら、急に後半ぶっ込んでくる子供がいる設定等、少々無理矢理感も否めないが、もう一人の主人公である内装業の男の『距離が近すぎると衝突する』という台詞は心に重くのし掛ってくる。車のエンストも、渋滞の中で起ってしまうことで衝突する危険が出てくる。しかし、ラスト、カメラがパンした先に、動き始めた車が通りすぎることで、ほんの少しだが希望を観客に抱かせるというニクい演出もクセモノの監督である。日常は何も変わらないし、益々苛立ちは募る。それでも希少な希望で人は前に進んでゆけるというメタファーなのであろう。
ちなみに、解説での間違い電話におけるジョニーの件は、ヒロインはそんなに気にしていないので、解説は間違いであり、故に原題もミスリードになってしまうから、邦題に変更したのは正解だと思う。“思慕”を抱きつつそれでも人は進んでいく、切ないながらの希望を表現した作品である。