「はい、私は低レベルの人間です・・・」予兆 散歩する侵略者 劇場版 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
はい、私は低レベルの人間です・・・
第1話
アパートで結婚生活を送る、病院勤務の山際辰雄(染谷将太)と縫製工場勤務の悦子(夏帆)。同僚浅川みゆき(岸井ゆきの)が「幽霊が出るから自宅に帰りたくない」と悦子のアパートに泊まることになった。幽霊の見た目は人間であり、その人のことを知ってるような気がするというのだ。辰雄が帰宅すると、みゆきは怯え、「ここにもあんな人がいるんだ」とつぶやく。とりあえずみゆきの自宅を調べようと訪れる悦子とみゆき。出迎えたのはみゆきの父親であったが、みゆきは逃げるばかり。父親に話を聞くと、最近そっけなく、化け物をみるみたいに相手にしてくれず、空気のような存在になってるとのこと。悦子はみゆきを病院に連れて行き心療内科を受診させる。
病院の小森医師はみゆきが「お父さん、お母さん、兄弟という言葉がわからなくなっている」と告げられる。「“家族”の概念がすっかり抜け落ちている症状としか言えない」と。
帰宅した悦子は辰雄の雰囲気が変わっていることに気が付く。なぜだか右手を使えないのだ。また病院の廊下で会った新任の真壁医師(東出昌大)という存在も気になり、辰雄にぶつけてみる。しかし、そっけない答え。翌朝、辰雄は「悦子。もうすぐ世界が終わるとすればどうする?」と質問される・・・
次回予告も含めて、辰雄が真壁医師(多分、宇宙人)のガイドになることは間違いない。家族という概念を奪われたみゆきの存在は映画本編の前田敦子と同じ。家族という概念が無くなるとどうなるのかが興味深いところだ。縫製工場の男性も何かを奪われていたのか、手に持ったものをすぐ落としているのが描かれていた。
本編よりも黒沢作品らしい雰囲気でした。「抜け落ちてる」という言葉が発せられたときにお父さんの後頭部を映さないでほしい(笑)。
第2話、第3話
「あなたは低レベルの人間ですか?」
山際辰雄(染谷将太)をガイドとなり、最初に真壁医師(東出昌大)がターゲットに選んだのは病院に賄賂などを使い深く入り込んでる業者の女社長川内和代だった。彼女からは“プライド”の概念を奪った。
次なるターゲットは辰雄が差別された中学の担任田岡。彼からは“過去”の概念を奪うが、それだけでは物足りず、“未来”、“命”の概念を奪った。
悦子(夏帆)は直接真壁医師と対峙し、夫を解放してほしいと懇願するも聞き入れられず、真壁を“異物”だと表現した。その悦子から“異物”の概念を奪おうとするが、何かが邪魔をして奪えずに終わる。同僚の斉木葉子(中村映里子)によって救われた。一方で、縫製工場の上司粕谷(中村まこと)がガイドとなっていることを悦子に告白し、宇宙人は彼の妻だと言うのだ。
“恐怖”の概念を欲しがる真壁はガイドの辰雄を利用して、全く無関係の男を拉致し、生き埋めにしようとする。そこで“恐怖”の概念を奪った真壁をスコップで殴り置き去りにする辰雄。人を殺してしまった罪悪感に苛まれることに・・・
やっぱり怖くないこの作品。“野党”という概念を小池氏に奪われた前原氏を見る限り、今後の政治情勢の方が恐怖だ。
第4話、最終話
人類終わりだな・・・
ビルの屋上で“死の恐怖”を味わって満足する真壁。本当に恐怖の概念を得たのだろうか。
縫製工場では粕谷が悦子に「最後までガイドとして服従することにしたよ」と告白した直後に粕谷の妻が現れて、工場内を歩くだけで人々が倒れていく。悦子を見つけた粕谷の妻は「その“嫌悪感”いただきますよ」と悦子の額に指を当てるが、奪えない。悦子は特別なんだと、自分でも理解したようだ。
同じように真壁も病院内を歩くだけで人々は倒れていく。侵略の第二段階に入ったようで、もう指を額に当てることすら必要がなくなった。
厚生労働省の西崎(大杉漣)が悦子と対面し、特別な人間である彼女に協力を要請する。ファミレスで他の客が皆倒れてる中で一人食事をする真壁。そこを厚生労働省、警察が取り囲み真壁を確保し、広い体育館の中で“共存のための交渉”を開始するのだ。どうしても埒が明かないので悦子に交渉役を託す西崎・・・
ガイドになると服従から逃れようとする度に右腕に激痛が走り、我慢できなくなる。悦子は右腕の激痛に苦しむ辰雄のために彼をガイドから解放してほしいと懇願する。もはや人類などのためではなく、愛する夫のためだけに交渉を始めたのだ。
交渉が上手くいったかわからないが、辰雄とともに悦子は車で逃げる。しかし、またもや激痛が走り、真壁を連れてきて完全にガイドを断ち切ろうと試みるのだ。そうした悦子に対し、「その“愛”という概念を知りたい」真壁。しかし、特別な人間悦子からは奪えない。そうして、廃工場で真壁と立ち向かう辰雄と悦子だった・・・
映画『散歩する侵略者』もそうだったが、ストーリーの本線から外れた伏線が何も回収されずに結末へと向かう。他の登場人物たちはどうなったのか?と、気になっても教えてくれないストーリーなのだ。ただし、この『予兆』はあくまでもスピンオフ作品。宇宙人は他にも活躍していたことを描いたものなのです。ラストで「こうして侵略は始まった」という台詞で締めくくるあたりは面白いが、ただ雨が降ってきただけのシーン・・・やはり映画の前に見ておきたかった。