「これまで見続けた人へのご褒美」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
これまで見続けた人へのご褒美
字幕版を鑑賞。ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じるようになって5本目、彼のボンド役はこれで最後になるらしい。基本的に 007 シリーズは単品料理で、前後の関連を持たないという作りであったが、クレイグがボンドを演じるようになってからの5作は物語が継続性を持っており、主要なキャストも引き継がれているので、前作「スペクター」を見てから鑑賞するのが前提になっている。
イアン・フレミングの原作は既に尽きているため、オリジナルの物語である。冷戦が終結し、世界的な対立構造が表舞台から消えてしまったため、スパイ1人の力で世界が滅びるような陰謀を阻止するというシチュエーションが想定しにくくなっている。今作はバイオテロがテーマになっていて、自暴自棄になったような敵が相手であるが、時節柄、現場を 47 にした方が良かったのではないかという気がした。
シリーズ最長 163 分という長さが全く間延びしていないのは驚嘆すべき脚本と演出の手腕である。各人物の人柄まで描いてあるのが好ましかったが、ラスボスだけがややリアリティに欠けていたような気がしたのが残念だった。テロの方法がウィルスをディジタル化して特定の相手だけに感染する致死性のナノロボットという想定は斬新であった。ロシア人のバイオ科学者がキーパーソンになっていて、彼を最初の方で始末しておけば良かっただけではないかという思いが消せなかった。
愛する家族と一生触れ合えなくなるという話は実に残酷なものであるが、ディジタル技術が根幹にあるのであれば、ハックして対象の DNA を書き換えられるようになるのを待つという方法もあったのではないかという気がした。また、防御扉が閉じてミサイル攻撃に失敗したとしても、一旦海中などに逃れてからもう一度開けて再度撃てばいいのではないかという気もした。また、周囲の電子装置を破壊する装置を起動した直後に仲間と無線で喋っているのはどういうことかと思った。
007 と言えばアストンマーチンが付き物で、今作でも序盤で活躍するが、本作ではジャガーやランド・ローバー、トヨタのランドクルーザーなどが活躍するのも目新しかった。
音楽はハンス・ジマーが素晴らしいスコアを書いていて、有名なメインテーマや過去作からの有名なフレーズを駆使した変奏曲仕立ての数々の曲は、非常に良く雰囲気を描いていて聴き応えがあった。台詞にも出て来る「時間はたっぷりある」という歌詞を持つルイ・アームストロングの「愛はすべてを越えて(We have all the time in the world)」は、シリーズ第6作、2代目ジェームズ・ボンド、ジョージ・レーゼンビーの「女王陛下の 007」の挿入歌であり、シリーズ通にサービスしたような選曲が気に入った。一方、ビリー・アイリッシュの歌う肝心な今作の主題歌は囁き声が耳障りで全く好きになれなかった。
ダニエル・クレイグの好演は言うまでもないが、キューバで登場した CIA のエージェントが実に魅力的であった。字幕が戸田奈津子だったのでちょっと心配したが、字幕監修というお役目が付いていたのでことなきを得ていたようだった。エンディングで James Bond will return と表示されるので、シリーズはまだ続くのだろうが、どのような展開になるのか、非常に楽しみである。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。