劇場公開日 2019年1月18日

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「作家たる人の人生。名作が生まれ至るまで。」ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー ゆちこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0作家たる人の人生。名作が生まれ至るまで。

2022年9月25日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

サリンジャーが自分を突き通していなければ「ライ麦畑でつかまえて」は生まれていなかった。彼が意思を突き通すことができたのは、自分を信じられるほど描くことが生きることになっていた日々にあると思う。

本編では、ライ麦畑でつかまえてに辿り着くまでに彼に起きたことや心の動きを辿ると共に、作家たる人格になるきっかけを与えた、ウィットが彼に掛けてきた言葉や行動と師弟愛を知ることができる。

創作家の切実な声、創作のためのアドバイスはじめ、記憶に残したいドラマチックな台詞がいくつも。文学作品をベースにしている洒落感や言葉への配慮も好きでした。

サリンジャーと編集者との会話からなぞることができる彼の人となり。
「Bananafishは2語では?」「いや1語にする。意味を限定したくない」
「ノルマンディーに上陸したとき、この原稿の一部を担いでいたし、収容所を解放したり、入院してた間も書いていた…ぼくを救った作品です。」

サリンジャーのことを回想するウィットの言葉。
「間違いなく人生で最も価値のある25ドルだった」

描くことが生きることでもあったために、それを脅かす社会から孤立せざるを得なかったことも理解できる。
晩年も描き続けていたことが真実ならば、もう彼のアイデンティティを脅かすものはないから、人生をかけて描いてきた物語が世に出ていくことを願いたい。
時は流れてしまったけど、物語は伝っていく限り生き続けるし、作家は誰かの心で作品が生き続けることを望むと思うから。

ゆちこ