「邦題の言い得て妙」負け犬の美学 eichanさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題の言い得て妙
主人公は盛りを過ぎた勝ち星の少ない40代のプロボクサーであり、妻子がいる。生計を立てる為に主人公は兼業し、妻も働いている。ボクシングの試合もなかなか組んでもらえない中、彼は欧州チャンピオンのスパーリングパートナーに立候補し、なんとか採用される。そもそもの動機は報酬が高額で、その収入でピアノを習っている娘に、ピアノを買ってやりたいが為だった。そんな主人公は日頃から家族に敬愛されて止まない。しかし彼に対する世間の眼は逆である。娘の或るクラスメイトは主人公をバカにし、公開スパーリングでは観客は主人公に罵声を浴びせる。娘は学校で父親をバカにしたクラスメイトと手をあげた喧嘩をし、観戦した公開スパーリングの後には気落ちし、塞いでしまう。全て父親を愛するが故である。そのような背景で、終始主人公がブレていないのがいい。主人公は自分にボクシングの才能が無いと思いながらも、好きだから続けて来た。そしてその長く続けて来られた秘訣として強打に打たれ強いことを挙げ、自らの武器だと言い切っている。そしてチャンピオンに、世界戦を前に的確な助言を出来る程、試合巧者で戦略家である。だてにキャリアを積んでいないのである。しかしそんな主人公も、自らのキャリアの仕舞い方に気を揉んでいる。出来れば華々しく有終の美を飾り、愛する娘の眼に焼き付けたい。それは世の多くの父親が抱く普遍的な思いである。なぜなら仕事振りと仕事への姿勢は、正に人生における生き方そのものだからである。自らの最後の試合を、これから人生の荒波に漕ぎ出す娘へのはなむけとしたいのであろう。映画のラストは、その思いが成就するハッピーエンドを暗示している。本作のテーマを言い表した邦題が良いと思った。