「変化球」神と人との間 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
変化球
第30回東京国際映画祭にて鑑賞
内田英治監督作品の前回作『下衆の愛』を観て、大変面白い内容だったので今回の作品も期待して、個人的には悪い思い出ばかりの六本木ヒルズ迄、大量の汗をかきながら走って滑り込んだ。そしたら上映前に出演者及び監督の挨拶が先に行われるとのことで、全く無駄骨であった。あの汗とその後の匂いは何故に必要だったのか・・・
ま、愚痴は必要ないので、今作品感想。
『谷崎潤一郎原案 / TANIZAKI TRIBUTE』というプロジェクトがあるようで、その第一弾が今作らしい。勿論、谷崎原作は未読であるのだが、映像では大正時代の小説を原題に置き換えたストーリー内容となっているとのこと。
結論からいうと、あの時代の空気を現代に置き換えることの難しさをひしひしと感じてしまった。テーマは三角関係であり、原作も実際をモチーフとした回想録、私小説的な内容である。であるならば、やはり大正時代という時系列がとても重要なファクターになるのだろう。あの時代の空気は想像上でしか頭に浮かばないが、自由さと窮屈さが極限に混ざり合った時代であり、なんとなく厭世観が漂うような気持ちを鬱々と人々は感じていたのだろうと思う。その中でのあの三角関係をこの時代に落とし込むことの無理さが感じられてしまった。しかし、今作品、実はブラックコメディとしての側面があるが故、その困難さをシニカルなユーモアに変えることで上手く完成させているのである。キャスティングも敢えて、俳優イメージとは逆張りを行ったのも面白い。
ストーリー展開には無理を感じさせられるのだが、これも又或る意味ファンタジーと捉えれば悪くはないと思う。舞台挨拶とティーチインで監督がSM的恋愛と言っていたが、一部分はそれは伺える、というのも、要素として『金』が殆ど介在しないのだ。多分そこに現実味を感じさせない大事なところが効いているのだろう。相当無理のある設定も又、力技で押し込んでいくし、ラストシーンの娘の『お父さんが死んじゃった』と叫びながらの走り周りは、シュールなオチでしか観れないがまぁこういう作品もアリなのだろう。
内田慈の今回の演技は今までの蓮っ葉な演出とは違い、珍しくしおらしさを前面に出した演技で、その瞬発力や確かな演技力に脱帽する。かなりアクの強い、変則的な作品である。