ラッキー(2017)のレビュー・感想・評価
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アメリカの砂漠で語られる仏教的世界観
おかしくて悲しくて あきれさせてくれて でもなぜか希望がある。
偏屈じいさんなんだけど、周囲は彼に優しい眼差しを向ける。
悲しくも優しい眼差しを向けるのは、カメラもそうだ。
だから観ている自分の眼差しも優しくなれる。
アメリカの砂漠で語られる仏教的世界観。砂漠という環境が無情感をうまく醸し出す。
ハリウッドの流行である多様性だのマイノリティだの me tooだの、バイオレンスだの社会正義だの麻薬だの、あるいは色恋だの、親子の相克だの、アメリカンドリームだの、ある意味画一的ステレオタイプの社会的主張のレベルを突き抜けてしまっていてむしろ好感が持てる。
巷間言われるようにジャームッシュの「パターソン」の偏屈お一人様ジイサン版。詩ではなくて思想、夫婦ではなく一人、何かあるのではなく何もない。ナッシング。
時間が太平洋戦争からまるで止まっている。その後の70年の記憶がないように。いったい彼の戦後とはなんだったのだろうか。それを敢えて描かない脚本・監督のセンスは素晴らしい。
描かないという引き算の映画。日本の伝統的絵画や懐石料理のような味わいがある。時間軸と遠近軸が薄い。時間が止まって空間が扁平化している。
この監督の次回作が楽しみだ。この人、アメリカ人には理解されづらいかも。
この作品を配給したアップリンクさん、グッドジョブです。
とても魅力的
同じ背景同じ登場人物を繰り返し写して、そこでのわずかな機微を明確にしている。
全ての人物が魅力的に描かれてる。
普通のじいさんばあさんおじさんおばさんが。別にいい人でもないのに。
凄いなあ。楽しくなる映画でした。
死期を迎える前に考えましょう
あなたは病気だから、あと何日で死にます。そう言われた方がどんなに楽か。医者とのやりとりを見てそう思いました。
死ぬことは不安ではあるけど、決して寂しい、悲しいわけではない。残された人達よ、どうか悲しまないでください…。最後のラッキーの笑顔は、そう訴えていたのかもしれない。
死期を迎え、なお社交場を求めて彷徨うラッキー。生きていた証を誰かに伝えたく、残したく、コミュニケーションを取る。お金や物が全てじゃない…なんて綺麗事は言いたくありませんが、大切なことは人との繋がりなんだよ。この映画から自分は、そんなことを感じました。
終活映画
他の方も言っておられる
ジャームッシュの「パターソン」の鑑賞後感と同じ感覚(それよりも薄味かもしれない)
またヴェンダースの「パリ・テキサス」のトラヴィスの「何故.旅に出るのか?」に対してのアンサー映画のようにも見えるし
その辺を踏まえた自分にはラストシーンは沁みたけど(カメも含めて)
と、その辺が好きな方には見る価値がある
何の思い入れのない方には?
どうだろう、伝わるかなぁ
色即是空
アメリカの田舎で日々のルーティンをこなしながら生きる老人。死が訪れることを恐れながらも、抗う事は出来ないことも悟っている。
偏屈な老人かと思いきや、パーティで歌ったり、戦友と語り合い悟ったり、友人のために喧嘩を売ったり。
最後の笑顔は最高だったし、全ては無であると悟るのは仏教的であった。
☆☆☆★★★ カメラに向かい、最高なまでの崇高な《微笑み》を残して...
☆☆☆★★★
カメラに向かい、最高なまでの崇高な《微笑み》を残して彼は逝った。
ルーズベルトこそは彼の人生そのもの。
これはハリー・ディーン・スタントンの『パターソン』
♫月明かりに輝く男…の魂は今、宇宙の真理となり。我々の記憶の奥にそっと仕舞い込まれた。
2018年3月17日 シネマカリテ/シアター1
人と関わり交わる幸せ
鬼気迫る?死期迫る?形相のラッキーことH・D・スタントンの年老いた姿に孤独な老人の哀愁が。
そんな寂しい独りでの生活を送っているかと思いきやラッキーの周りには親身になってくれる人々が存在していて毎日が似たようなルーティーンだが凄く楽しそうな日々で。
なかなか煙草を吸う場面が多いが屍のような細い体で吸われると物凄く体に悪そうで痛々しいが医者は逆に喫煙を進める和やかさ。
J・キャッシュの曲が流れるハリー・ディーンとの相性の良さが堪らなくシブ過ぎる。
ハリー・ディーンの出演作はホボ主役じゃ無いのに好きな作品も多くて素晴らしい存在感を醸し出し記憶に残る印象が強い!
最後の最後でビシッと主役を張るなんてやはり只者では無い役者だった。
ルーティーン
アメリカ南部の田舎町で暮らす90歳の独身男性の話。
ヨガとミルクとコーヒーとタバコ、クイズ番組とクロスワード。
超現実主義者で見方によっては偏屈な爺さんがある日倒れ、検査結果異常はなかったが老いを実感し人生を見つめるストーリー。
多くを語る訳でもなく、ゆったりとした流れの中で温かくももの悲しくそして激しく、生きるということや人としてのあり方を感じると共に考えさせられるとても良い作品。
ハリー・ディーン・スタントン最後の笑顔
ハリー・ディーン・スタントンの遺作になってしまった「ラッキー」を見てきました。
本作品、監督を務めたのは俳優のジョン・キャロル・リンチで、本作品が監督デビューなるのかな・・・
ハリー・ディーン・スタントンで主演という事で、劇中、「パリ・テキサス」のオマージュ的要素を十分にも感じとれた作品でした。
別の見方をすれば、ハリー・ディーン・スタントン自身の生涯をまとめた映画にも感じましたし、トラヴィスのその後としても感じた作品でした。
ハリー・ディーン・スタントン自身の生涯を描いた作品の方が強かったように思いますので決して派手な作品ではありませんが、自分自身、人間として生き方、自身の終わりに関して生き方など様々に考えさせられる作品でありました。
頑固で融通の利かない老いぼれ、しかし本音は人に愛され愛したい、また、死に対して本音など、しかし、91歳になるまで精力的に映画の主演をこなし、台詞を覚えカメラの前に立つ彼の姿には見ていて感心させられました。
私も、これから一所懸命に頑張って生きて行こうと思わせられました。
最後に、本当にラストに、ハリー・ディーン・スタントンがカメラの前で微笑んで終わるのですが、それが何とも「俺はいい人生を過ごしてきたよ」と言わんばかりに、映画に自身の遺言を残されたような感じを受けました。
ハリー・ディーン・スタントンこそ、良い人生を全うされたのかなと思わせる映画であり、私も負けないように生きていきたいと思わせる映画でした。
美しくユーモアに溢れ、ほっこりする映画
とても面白い映画だった。色々な意味で『ツインピークス』オリジナルTVシリーズを彷彿とさせるところがあった。老人はもちろんのこと、黒人、メキシコ人、白人、若者、みんなが全くステレオタイプに描かれてなくて、自然に共存していて、安心して観られた。ダイアローグがめちゃくちゃ面白く、静かにフラットに進む割には爆笑につぐ爆笑だった。キャラクターたちの何気ない会話の中に、「生死」や「老い」や「人生」に対する教訓のようなものが示唆されていて思考を刺激されるのだが、なんだかわからなくてもなぜか退屈せず観れてしまうし、しかも何だかほっこりしてしまう。アリゾナと思われる田舎町の風景も、砂漠でありながら美しく、癒される。
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