「老人の孤高の姿は、まさに「月に輝く男」と讃えたい」ラッキー(2017) 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
老人の孤高の姿は、まさに「月に輝く男」と讃えたい
人は老いに不安を持つものだ。
だけど、この老人ラッキーは、孤独と一人暮らしは違う、と言う。
ああ、その通りだ、俺もそうだ、とその時は思った。でも、どうやら老人はそうではなかったようだ。不安を取り除くには他人と触れることが有効だと聞くが、まさしく不安に襲われた老人は、軽くハグをすることで不安を取り去ったように、自分には思えた。
そして、老人にとっての未来と言えば、死。遅かれやってくるであろうその時を迎えるにあたり、その覚悟を穏やかにさせてくれる退役海兵隊員の沖縄上陸戦のエピソードには、心震えた。
メキシコ人家族のパーティーで歌う姿にも感銘を受けた。老人は、日常のルーティンを守る頑固者であり、意見が合わない相手とは喧嘩も辞さない意地っ張りであるけれど、けして偏見を持った人間ではなかった。老人の歌声に微笑むメキシコ人の笑顔がそれを雄弁に物語っていた。
「nothig」の言葉の意味するものや、リクガメをめぐる一連の騒動を含め、全体に流れるメッセージは、まるで禅の世界のようであった。
映画のなかの台詞をおさらいしたくて、自分としては珍しくパンフレットを買った。そこで、ラッキー演じるハリー・ディーン・スタントン自身が沖縄戦を経験していると知った。つまりこの映画にはスタントンのもつ死生観が反映されているのだろう。おかげで今、この映画が胸にじわじわしみ込んできてたまらない。こんないい映画の上映館が少ないことが惜しまれてならない。
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