劇場公開日 2019年4月12日

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「爽やかな感動を覚える」荒野にて 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0爽やかな感動を覚える

2019年4月30日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

幸せ

 アメリカの田舎は日本の田舎よりもずっと田舎である。自動車がないと不便なところは同じだが、田舎でもバスが走っている日本と違って、広大な土地のアメリカでは自動車がないと本当にどこにも行けない。西部劇では馬を駆って走っている。かつては馬車も大活躍したが、今では自動車だ。
 馬に乗っていた名残は競馬の形で残っていて、趣味としての乗馬も盛んである。競馬も大人気だ。現代の日本の競馬の主流血統であるヘイルトゥリーズン系のサンデーサイレンスは、アメリカの三冠レースであるケンタッキーダービーの勝ち馬である。
 アメリカにはサラブレッドが走る競馬だけではなく、一回り小柄なクォーターホースによる短距離レースもある。本作品の原題になっている「Lean on Pete」はクォーターホースの競走馬で、父親と二人暮らしの素直な少年と関わることになる。

 本作品の舞台はポートランド。時代はというと、スマホを持っているのがお金持ち風の人たちだったことから、普及率の変遷を考えると舞台はおそらく2010年ころだ。いろいろあって父親と二人暮らしをしている16歳の主人公チャーリーは、馬の世話をして賃金を得るようになったが、ある事情が発生したため、馬を連れて旅に出る。
 行き先はワイオミングの伯母さんのところだ。かなり前の記憶だけが頼りである。ポートランドからララミーまでは1800km以上ある。日本で言えば鹿児島から札幌までくらいだ。16歳の少年とクォーターホースにとっては果てしない道のりである。行き着いたとしても伯母さんに会えるかどうかはわからない。半端ではない勇気で少年は邁進する。16年という少ない人生経験ながら、善でも悪でも持てる力のすべてを発揮して、少年はピートとともに前に進む。
 映画は必ずしも主人公の味方ではない。つまりリアリズムである。人間は食うに困れば何でもする。それを咎める者もいれば許す者もいる。長い旅の中で、少年は極限状況を次々に経験しながら、急速に大人になっていく。しかし魂のエクササイズはそれに追いつかない。なんとかなるという空元気と心細い本音、人を信じる気持ちと信じられない気持ちの間で揺れながら、少年は前に前にと進んでいく。それしか彼の生きる道はないからだ。
 少年が主人公ではあるが、少年の旅に寄り添っているうちに、自分の半生を追体験したような気になる。少年の旅は少年だけでなく、世の人の人生そのものだったのだ。ラストシーンでは少年の魂がようやく落ち着いて、不安と恐怖と、それに悪い心を洗い流すようだ。素晴らしいシーンである。人生を力強く肯定する世界観に爽やかな感動を覚えた。

耶馬英彦