「The anger gets the greater anger. オレンジジュース」スリー・ビルボード アキ爺さんの映画レビュー(感想・評価)
The anger gets the greater anger. オレンジジュース
ふぅぅ。wikiに載ってた評価で「『スリー・ビルボード』はブラックコメディであることと凄惨なドラマであることを見事に両立させている。」とありましたが全然ブラックコメディとは思えない。考えれば考えるほど心の持ちようが難しい映画です。それほど感情に溢れる作品でした。
個人的にはレイプ犯は死刑になっていいと思ってます。自分の娘をレイプされたあげくに火をつけて殺されたら犯人を殺したくなって当然です。赦すとかありえない。例えば自分の身に起こったと想像してみたらどうでしょう?レイプは女性じゃないと分かりにくいでしょうから、極端な話あなたがサイコな人から両手切断されたとして、その犯人が笑いながら生きていても「罪を憎んで人を憎まず」なんて言えるでしょうか?私は無理です。犯人ブチ殺したくなると思います。
それでも、ラストシーンで私刑しようと向かっていく先は娘を殺した犯人ではなく、しかもディクソンが酒場で話を聞いただけで、あいつはレイプ魔だと決めつけて殺しに行こうとしている。法治国家において私刑(法によらず、私人が勝手に加える制裁。リンチ。)は駄目なんです。少なくとも警察署長が隠ぺいしている証拠は(私が何か見逃していない限り)作中では語られなかったですし、全くの勘違いである可能性もあります。いや、あの男は確かにメチャメチャ怪しかったですけど、確証なく私刑を赦してたら世の中は成立しませんし。ですので最後のミルドレッドとディクソンの行動は筋違いに見えてしまい容認できるものではありませんでした。だから余計にラストにモヤモヤします。
フランシス・マクドーマンドの演技、良かったです。犯人に怒りつつ、実は自分自身も許せない怒りを抱えてる母親。特に鹿に心情を吐露するシーンとか無理してる事が伝わってきて名シーンだったと思います。ウディ・ハレルソンの演技、良かったです。あの自殺は不器用な優しさなんだよなぁ。でも、何と言ってもディクソンを演じたサム・ロックウェルでしょう!ゲスな警官で不愉快でしかなかったのに、ウィロビー署長の手紙読んでからの覚醒っぷりときたら。今作品で一番成長してましたよね。最後の車の中でミルドレットに答える一言とかカッコ良すぎるぅぅ!!素晴らしかったです。
基本的に登場人物にロクな人間がいない作品なのですが、不動産屋のレッドがディクソンに差し出すオレンジジュースに「怒り」だけに捕らわれない人間の「愛」を感じます。あれだけ怒りに満ちた映画で、あのシーンがあるからこそ満たされる。そんなワンシーンを挟めるマーティン・マクドナー監督に作り手の上手さを感じました。