「アメリカンニューシネマの趣」スリー・ビルボード トコマトマトさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカンニューシネマの趣
「シガニー・ウィーバー、顔変わった?」
ヒロインを演じたフランシス・マクドーマンドを知らなかった…。映画の広告にあるビジュアルを見て、鑑賞前はそんな勘違いをしていた。
マクドーマンドがオスカーを受けた「フォーゴ」もレンタルビデオで借りたものの、飛ばし見しただけで見た記憶も薄かったから…。
それはさておき、今年に入って初めて他人にも勧めたいと思う作品である。
米南部の田舎町で、娘をレイプの果てに焼き殺された母親が起こす行動と騒動がテーマ。
ただの復讐劇ではなく、随所に笑いがちりばめられ、真犯人に迫ろうとする(あくまでにおわすだけだが)ミステリータッチ、そして、子を失った親の心情など、随所に監督の映画的ヒネリが見られて印象深い。
話は事件そのものの謎解きや、警察官の操作法などが織り交ぜられ、単純ではない。どちらかというと複雑かもしれない。しかし考え込む必要はない。
陰鬱になってきそうになると、ふっと力を抜いたような笑いがいいタイミングでわき上がるのである。そこが魅力。
鑑賞後、820円のパンフを買うと、載っていた町山智浩の解説で、登場人物が劇中に読んでいた小説が、本作を見る前に僕も読んでいた米作家、フラナリー・オコナーの「善人はなかなかいない」であるのを知って驚いた。
オコナーが描く、残酷なのに乾いたユーモアがこの映画にも通じるなあ、と映画を見ながら感じていただけに、それがドンピシャだったのである。
結末がはっきりしないことに、娯楽作しか理解できない鑑賞者は不満かもしれない。
しかし、全体から醸し出される、1960年代末のアメリカンニューシネマの趣は捨てがたい。
『娯楽作しか理解できない鑑賞者は不満かもしれない』という決めつけた書き込みは訂正して下さい。トラブルの元です。
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