「感情を荒々しく揺さぶられる作品」スリー・ビルボード こめさんの映画レビュー(感想・評価)
感情を荒々しく揺さぶられる作品
言葉には収まりきらないほどの感情の暴力でまさにポスターの売り文句どおり魂が揺さぶられる作品でした。
序盤のカントリー音楽でちょっと退屈しちゃうのかなと思いきや、広告店での場面でミルドレッドの皮肉めいた話口によって惹きこまれていき、説明口調にならずに現状をわからせる見せ方でした。
今回の主軸となる警察に問いかける広告は、普段刑事ドラマを見ている自分としてはドラマ内の被害者の警察への反感にムッとしちゃうのですが(主人公の刑事たちに入れ込んでしまうため)、でも実際は被害者は頼るものは警察しかいなく自分の力では犯人の手がかりさえ掴めないもどかしさ、なのに頼るしかない警察は何もしてくれない憤りなどがあり、それを丁寧に荒々しく描かれて2Dなのに圧倒されてしまいました。
しかし主人公の気持ちを汲み取りつつも警察側の描写の丁寧さも忘れず、署長の一生懸命さは周りから尊敬されることが納得いき、責められつつも証拠もなく何も出来ずにいるところは見てて辛いものでした。そしてそんな両者の感情の渦に飲み込まれるようでした。
署長が自殺してしまった時は「え、なんで、、、署長がいたからまだストッパーとしてディクソンに注意で
きたのに、いなくなったら悪化するよ…」と思っていたのですが、彼の死によって広告維持、ディクソンの改心、署内の改善繋がり個人的にはとてもショックだったのですが、これが大きな転換となり終焉に向かって行くために必要だったのかなと思います。
終盤は犯人ではないけどレイプ犯を殺しに行く道中で終わりますが、若しかしたら半端な終りで好きじゃない人もいるかもしれない。でも私は良い終わり方だと思うし、特に最後にかかる穏やかなカントリー音楽、あれが場面に色を添えてて好きでした。たまにアクションやミステリー系にあるハッピーエンドとは言えない終わり方に向かってるのに、妙に明るい音楽や優しい音色がBGMになるラストシーンが好きで、これから殺しに行くというに似合わない穏やかな音楽が、まさに感情のぶつかり合いをしていた両者が今の場面では憑き物が取れたように落ち着いてる。殺人をして捕まるかもしれない、家族に迷惑がかかるかもしれない、そんな不安を感じさせない、そして二人の行方を考えさせる終わり方でした。
3枚の広告看板にすべての感情を託した女性の映画は、ただ「スリー・ビルボード」と邦題も変えず正解だと思います。それ自身が人々の思いも街の状況もすべて含んでいて物語っている。
とてもいい作品でした。