「マーティン・マクドナーが試みた西部劇の再構築。」スリー・ビルボード MPさんの映画レビュー(感想・評価)
マーティン・マクドナーが試みた西部劇の再構築。
カールした髪を少しだけ後ろで束ねて、そこにバンダナを締め、ツナギで武装した怒り心頭の母親、ミルドレッドが、ギターの爪弾きに乗って、レイプされ、焼き殺された娘の敵を討ちに行く。さながら、現代のミズーリにカウボーイがワープしてきたかのようではないか!?ジョン・フォードと同じくアイルランドに故郷を持つ監督&脚本のマーティン・マクドナーは、偉大な先人に敬意を表し、西部劇の再構築を果敢に試みている。しかし当然、ここでは善対悪の構図はかつてのように単純ではなく、悪人に見えた人間には情状酌量の余地が大いにあり、さも善人面して登場する人物が巨大悪の手先だったりする。そんな時代に、ひたすらいがみ合い、傷つけ合うことなど無意味なのだ。互いに思いやりを持ち、理解する努力を怠らないことこそ、人としての知恵ではないのか?想定外に次ぐ想定外で観客をとことん混乱させる物語は、最後に心和む着地点を用意して、そこはかとない余韻を残して幕を閉じる。その余韻はしばらく消えることはない。オスカー云々に関係なく、今年まず観るべき1作だ。
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