「シリアスとシュールコメディの混沌から生まれる何か」希望のかなた つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
シリアスとシュールコメディの混沌から生まれる何か
有名な人だけどアキ・カウリスマキ監督の作品を観るのは初めてだ。なので作風などについて深く語ることはできないが、本作を観て一番に感じたことは混沌だ。
不法入国している状態で難民申請をする主人公カーリドのパートのシリアスさと、レストラン関係のパートのシュールコメディのような雰囲気が、なかなか合わさらないままかなり物語が進行する。これを混沌と言わずしてなんと言おう。
何となく面白く観られていたので大丈夫ではあったものの、ちょこちょこ自分が何を観ているのか分からなくなる。一体何の物語なのかと。
しかし終わってみれば、微かににじみ出る優しさの連続にうっすら感動してしまう。
大きなドラマチックさがなくとも、コメディ部分が感動を阻害しているように感じても、結果的には後に生まれる小さな微笑みに繋がっているように思える。
監督は、移民が有害というわけではないことを描きたかったと言っていたと思う。
主人公カーリドだけではなく、レストランで働いていた面々もおそらく移民だ。作中で描かれている彼らは勤勉だったとは言えないが、少なくとも有害ではなかった。
移民の彼らが過剰に美化されることがなかったところに適度なバランス感覚を感じる。
そして、殴られても食事を振る舞い、カーリドの後の面倒もみたヴィクストロムが、アキ・カウリスマキ監督が本当に描きたかったことなのかなと思った。
主にコメディパートで出ていたし、無表情無感情の状態が多かったので気付きにくいが、振り返れば、ヴィクストロムの寛大さや優しさは、並大抵のレベルではなかった。
ヴィクストロムのような優しさは伝播しより大きな喜びを生むのかもしれない。
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