「ジミ・ヘンドリックスとワサビネタ」希望のかなた kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ジミ・ヘンドリックスとワサビネタ
石炭の中から徐に登場したシリア人カーリド・アリ。密入国、しかし彼の説明によれば、トルコ国境を越え、ギリシャ、ポーランド、リトアニアなどの東欧諸国を超え、ネオナチから痛めつけられたため逃げ込んだ船がたまたまフィンランドに着いたとのこと。真っ先にすることは警察で難民申請することだった。収容所で知り合ったイラクから来たマズダックと友達になり、生き別れた妹を探すために携帯を借りて、あちこちに連絡するのだ。
フィンランド解放軍と銘打ったジャンパーを着た、明らかに右翼かネオナチのような男3人組。映画の中でこいつらだけは排他的偏見の持ち主で、カーリドを見た途端にいじめ抜く憎々しい奴らだ。ヨーロッパで難民問題が深刻化する中、警察など行政側の人間は追い出そうと躍起になるものの、市井の人たちは皆優しく、彼らに救いの手を差し伸べる。特に妹を見つけた連絡を受け取り、密入国に協力した長距離トラックの運転手が報酬を受け取らなかったところで泣けてくる。
カーリドの描写と同時進行で、酒浸りの妻に別れを告げ、商売替えしてレストラン経営を試みる中年ヴィクストロムが描かれる。深刻な状況のカーリドとは対極で、店のシャツを売りさばいた金を使い、のんきなことに闇賭博のポーカーで手持ちの金を倍増させる。駐車場の出口でカーリドとは遭遇しているが、強制送還からの逃亡中に店のごみ置き場で一発ずつ殴り合って一気に打ち解けた二人。従業員として迎え入れた上に偽造身分証まで作るという手厚さを見せてくれるヴィクストロムだ。なんだ、いいオヤジじゃん。
敗者三部作の次は難民三部作と位置付けたカウリスマキ監督。まだまだ未見の作品ばかりですが、この作品も日本びいきのシーンがいっぱいあって、特にレストラン“ゴールデン・パイント”を寿司店“インペリアル・スシ”に変えるところは笑える。ワサビもネタ以上に大きいし、「いらっしゃいませ」と日本語で客を迎え入れる。音楽も渋いブルースの弾き語りから日本歌謡曲までと魅力満載です。調べると、篠原敏武の演奏する「竹田の子守唄」とありました。
最後は悲しい出来事がありましたけど、結末はわかりません。このまま病院へ行っても偽造証明書がばれて、たちまち強制送還か、それとも死か。友人となったマズダックは看護師の資格を持っていたはずで、彼に頼ればなんとかなったのかも・・・と、色々想像できる余韻を残してくれます。